蘇る金鯖 復讐篇
大鯖春彦
二
日本列島の東方に2000kmにも及ぶ前線が停滞していた。
それは野島崎の沖合いで爆弾低気圧を吸い込み、
天滴をありとあらゆる方向に弾き出していた。
低気圧は、時速60kmで移動していて、
中心に近い太東岬では、
極めて強い北東風と、
激烈なる球状の雨をクリエイトしていた。
ただ、雨というよりは、
まるで頭上で巨大な水瓶を絶え間なく逆さにしているかのようだった。
深夜三時。
太東岬の手前に九十九里ドライブイン跡地があり、
そこにフォード・エコノラインが停められていた。
常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)の鶏冠色のサーフボードが、
エコノラインの後ろに無造作に置いてあった。
日本書紀に出現する鳥のクチバシ色の物体。
砲弾にも似た雨粒は、地表にぶつかり、弾けていた。
同じ雨粒は、硬い、6オンスボードに叩きつけ、
跳ねた水が煙状になり、
初期デザインのボンザーアウトラインをあいまいに伝えていた。
九十九里浜の南端に位置する太東岬。
このエリア全域に分厚い雨雲が浸し、
闇がさらなる闇となっていた。
まれに国道128号線を走るヘッドライトの反射で、
陸に近い波濤が照らされて鈍く光る。
数時間前のブイ計測が330cm、11秒、
流速8.8cm/秒という台風を軽く超えるほどの数値を叩きだしていた。
影が動いた。
風景と同化していたので気づかなかったが、それは人だった。
それは高倉英治だった。
高倉は、数日前に上総一ノ宮にある家に戻り、
地下室に隠したいくつかのダイアモンドを処分し、
現金をバックパックの中に詰め、
それを数枚のウエットスーツで巻くように隠していた。
そのバックパックには、
ガーバー・マークⅠ(ワン)の刺殺用ブーツ・ナイフが数本、
レイバンのブラック・キャラバンのサン・グラスと一緒に差し込まれていた。
高倉は、
南に下るために国道128号線を走らせていたときに妖物のような波を見たのだった。
猛る雨をものともせずに
目を瞬かせもせず、脇にボンザーをはさみこみ、崖を降りて行く。
稲妻が闇を切り裂くのと同時に雷鳴がやってきた。
夷隅からの方角で、
嵐が再接近していることを意味していた。
闇。
さまざまな波濤の断末魔が咆哮している。
豪雨の絶え間ない音との響きが、怒濤に変わり、
轟音と、風が一体となって螺旋状に立ちのぼっていた。
〈この作品はあくまでもエンターテインメント・フィクションであり、
したがって、
物語内の1971ボンザーのアプルーブルをタイラー・ウォーレンが、
現実に取得できたかについても著者の関与するところではありません〉
(三に続く)
【オオサバ復讐編1】
【オオサバ野望編】
Dragon Glide!!
◎