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Counterculture Emphasis on Happiness(主流から離れることによる幸せへの強調)_初出Blue.101号_(1754文字)

Counterculture Emphasis on Happiness
(主流から離れることによる幸せへの強調)

パイプライン・マスターズのライブ中継を見ていた。

ジョン・ジョン・フローレンスが、

バックドア内部をパンプしていて、

新時代を象徴するようなライディングに驚かされた。

パイプラインのライトがバックドアなのだが、

1960年代からシーンで活躍するハービー・フレッチャーは、

「私はパイプ・ライトと呼んでいたぞ」と、

威厳のあるお顔でそう言っていた。

パイプライン・マスターズの歴史と尊敬は多大で、

現在はWSLという団体が、

『PIPE PRO』として開催し、

その長い歴史を継続している。

WSLはサーフィン競技でメイン・ストリームの団体だ。

コンテストのレギュレーション(規則、規定)はトーナメント方式。

最後まで勝ち残ったものが優勝となる。

この方式について何も疑問を持たなかったのだが、

四半世紀ほど前、

「(サーフィンに)勝敗は存在しない」

というドノバン・フランケンレイターの言葉に賛同し、

いまにいたっている。

同時にカウンター・カルチャーやサブカル好きな私は、

サーフ界の少数派の様式に目を向け、

アート、

価値観、

ミッドレングスやフィッシュに魅せられた。

主流から離れたことによって、

エスニック・マイノリティとか、

リベラリズムというクリエイティブなカタカナ気分となったことがうれしかった。

さらにフィンレスやクラシック・ログという歴史的な概念によって、

数々の高いマインド・セットを獲得した。

前述した理由からサーフィン競技の勝敗を見ることは休止したが、

あの美しくも恐ろしいパイプラインで、

メイクされた(されなかった)ライディングを取り出して楽しんでいる。

競技の中で考えてみると、

バックドア・シュートアウトが、

デューク・カハナモクが掲げたサーフィンの持つ本質に近いと感じている。

デュークは近代サーフィンの一番星であり、

偉大なる父だ。

バックドア・シュートアウトのレギュレーションのおよそ10箇条を羅列してみた。

1.仲間(味方)だけでヒートを行う
2.誰も敗退しない
3.ひとりの優勝者を選ぶ(2024年度の賞金は5万ドル、現在の貨幣価値で約740万円)
4.バレル(チューブ・ライディング)能力の熟練度と才能を評価する
5.波の選択とアプローチ、パワー、スタイル、コントロールを採点する
6.サーファーが持つ海への敬意も評価基準となる
7.8チーム、各5人のヒート組は抽選(潮位や風向きで有利不利があるため)で決定する
8.各選手は40分、合計6ラウンド=4時間サーフできる
9.ハワイ語ピジンが公用語
10.得点は乗った波に対して0.1点から10点を採点者が与える。
(オバケセットで満点はスペシャル12点)

全てのヒートの上位3本をカウントして、

最大数を得た人が優勝。(2位はない)

このイベントによって、

サーファー同士の仲間意識、

サーフ・コミュニティを育むことができると、

主催者は胸を張る。

トーナメント方式(エディ・インビテーショナル等は除外)は、

自分が優先権を持っていれば、

他者の邪魔をしても良いことになっている。

サーフィンとは、

危険なサーフボードが存在するので、

ルールを紳士的に解釈してきた。

だが、

ガブリエル・メディーナが(*、**)、

優先権を持たないケリー・スレーターを故意に邪魔し、

優先権ルールというのはどこまで許されるのかと、

サーファーたちのあいだで論議となった。

(*2016年のフィジー・プロ/**翌年のパイプライン・マスターズ)

私見だが、

競技ルールへのアンチテーゼとして、

仲間だけでその日にやってくる最高の波をメイクするイベント

『バックドア・シュートアウト』

が誕生したのではないだろうか。

しかもサーフ界で最高峰の、

ハワイ・ノースショアでデュークの冠をつけてのイベントは、

業界への影響力も浸透力もあるだろう。

『多くの人が楽しく安全にサーフできること』

これは前出したデューク・カハナモクの言葉だ。

そしてそれからおよそ100年後、

サーフィンを愛する私たちは、

より幸せなサーフ世界という理想郷を描いている。

その入口は、

競争ではなく、

バックドア・シュートアウトのような

「波に乗る人たちによる協奏」

という確信に心を躍らせた。

(了、2024/02/22)