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naki's blog

無料ブイ情報対有料波情報サイト_ゲッティングアウトという名前のドラマ

「7ft 9sec」
ブイは波高、波間隔と共に数値が下がってしまった。

有料波情報サイトサーフラインでは今日から上がる予想なのに、またいいかげんなことを書いているぞ。

このサーフラインは1年間のプレミアム会員で$60ドルも取るのに、波予想が当たるのは1/3程度とじつに低い的中率だ。

ブイ情報は無料で、そのかわり予想はないのだが、ブイが動いてから4?6時間でうねりがやってくるのでじつに正確である。

アメリカの有料波情報サイトも日本の波情報のように正確に知らせてくれたら最高なんだけどなあ。

今日は長老フレディとソフトサンドに行ってきた。

波は下がったと言っても十分なサイズがあり、さらなるファンサーフの日だった。

満月に近いロータイドが朝7時。

ちょうどその頃に到着し、見慣れた感のある波を確認するとワックスをさらっと塗って沖に出て行く。

今日のコンディションはオーバーヘッド。
ショアブレイクから沖のピークまでは直線距離で60m程度。

こんな日はセット最後の波を待って、それにジャンプするように沖にパドルアウトする。

セットが入る。
4本程度だろうか。

その間、沖にセットの筋が入っていたらゲッティングアウトはキャンセルとなる。

このセットの後ろには筋は見えなかったので、決行することにした。

最後の波がショアブレイクで崩れ、大きくなった泡が平らになってこちらに押し寄せてくる。

それに向かって走り、体をボードに乗せて海面を滑走する。

その推進力がついているうちにボードが揺れないようにパドリングを開始する。

3回左右に漕いでいると、平衡感覚が安定してくる。

朝はいつもなぜか不安定だ。

次にノーズとテイルのバランスを見て、上下に調節する。

今日はテイル側に乗りすぎだったので、2cm程度前に重心を移し、バランスが最適になったところで、両手を大きく前に出して全開パドリングを開始する。

思いきり5回漕いだところで、横を確認するとフレディと目が合った。

意味もなくうれしくなって、バタ足でその歓びを表現する。

「生きていて良かった」

「サーフできて良かった」

「海で遊べて良かった」

というベーシックな歓びが体内を満たす。

波が来た。
セットではないが、沖から崩れてきた通常波だ。

ショアブレイク手前は深いから、波は上部1/3で崩れ、そのままこっちにロールオーバーしてきた。

両手でレイルをつかみ、右つまさきをデッキパッドの上に乗せ、ノーズ側が沈むタイミングでつま先を深くボトムに押し込む。

波の弱さと水深とが相まり、深いダックダイブができた。

海中では目を閉じているのだが、海面に浮いてきて、視界が明るくなったのがわかる。

ジャバァという音と共に海面に出る。

コツは上がるときにアゴを上げるのがポイントで、こうすると髪の毛が前に落ちてこないで良好な視界が得られる。

そのまま目を一瞬開ける。
目が海水で染みて少し痛い。

次の波が崩れているのを確認し、一度目を閉じ、そのままパドルし、波の音が近づいたところで、片眼を開け波との距離を測る。

波が近づく、今度は腰程度の高さだが、海面まで泡が残るしっかりした波だ。

もう一度さっきのようにレイルを持ち、つま先を使ってボードを沈める。

海面に出て、一度目を開ける。

水平線が見える。

波は来ていないようだ。

「よーし!」とここから全速パドリングモードとする。

流れで海面がでこぼこしているが、それにノーズが喰わないようにひょいひょいと胸とアゴを小刻みに上げて速度が落ちないようにしながら両手は最深、そして最大負荷としてリズム良く漕いでいく。

沖にセットが入った。

パドリングしながら確認すると、今自分がいる位置と波が崩れるだろう場所からどうしても波を喰らうことは間違いなさそうなので、そのままの速度を維持しながら進む。

さらに波を分析する。

流れは右から左に。波も右から左に崩れてくる。

推定インパクトゾーンは3m前方だ。

波の高さが頭ちょいなので、「インパクトを喰らっても良し」とし、そのまま直進し、その波は沖にある浅いサンドバーで持ち上がり、勢いよく前方に先端を叩きつけた。

タッパーン!!

2m前なので、先ほどと同様にレイルを掴み、つま先をテイルに乗せたまま海面に叩きつけられた波のその後を至近距離で見る。

波が薄いのか、そこが浅すぎるバー(砂州)だったのかはわからないが、波はインパクト後に勢いよく真上に波が跳ねたので、俺は浅くボードを入れ、つま先も深くは押し込まず、海面と平行になるように沈め、体をボードに密着させて波が上を通り過ぎるのを待った。

すると、やはり波は海面でパワーを出し切ったのか、海底深くまで威力を発揮できなかったようで、少しボードが揺れただけで戻されることなく海面に上がった。

目を開けると、さらに大きな波が来ている。

ワッセワッセとさらに漕ぐが、先ほどよりも前方5m程度でブレイクした。

咆哮に似た音を発しながら白い泡の塊が勢いよくやってきた。

底を見ると深そうなので、両手とつま先をできるだけ深くその泡塊の下に潜らせるたが、海中で背中が泡に当たり、ゴトゴトと揺すられ、今度は4mほど岸側に戻された。

つまり、俺は波の流れと一緒にーー後ろ向きにゆっくりとながら動いていた。

海面に出るが、推進力を失ったボードが海中に沈みこもうとする挙動を抑える。

髪の毛も顔にかかって視界は10%程度しかないが、顔を拭いている暇はない。
ボードを前に進ませるべく、浅く早く漕ぐパドリングに切り替える。

少し前に動き始めたが、またさらなる波が来ているので、ここは体力温存も兼ねて全力では漕がず、8割程度で前に前に、とリズムを取るように進む。

波に潜る。
少し戻される。

しかし、次の波は来ていないようだ。

またパドリングを全開モードにし、右、左、右、左とぶれないように漕ぎ続ける。

そのブレイクしない中波を越えると、次の波が来ていた。
だが、これはなんとか前に出られれば、泡には喰らわない可能性がある波だった。

全開モードに加え、フッフツフッという呼吸法で自身100%の限界に達するかのようにパドルを進め、その波が崩れる真下を深いダックダイブで潜りこみ、勢いよく前に出た。

もう一本同様なものが来ている。

これは楽勝系でトップを薄く、早く潜らせ海面に出て沖を見ると、もうセットは来ていなかった。

よし完了!

フレディも少し経ってにこやかにやってきた。

たった短時間のことだが、このゲッティングアウトには毎回違うドラマと結末があって、しかもそれは「サーフィング」という物語の序章にもすぎないのだ。

後はラインナップに近づき、セットを分析し、岸にある目標物を決めて波を待てばいい。

やがて来た波に今度は潜らないで滑るのだ、ということを考えていると、それだけで俺は胸が高鳴る。

ゲッティングアウトは決して目立たないし、楽しくはないけど、これがないとサーフィングが成立しない、という重要なものです。

今日はそんなことに焦点を当てて書いてみました。


10 thoughts on “無料ブイ情報対有料波情報サイト_ゲッティングアウトという名前のドラマ

  1. Fg

    ゲッティングアウト、ダックダイブ。
    文にすると奥深い世界ですね。
    サイズ、波質の違いはあれど同じ思いを今朝思っておりました。

  2. こうたろう

    Fgさんのタイトル通り、本当に文学ですね。

    ここまで、ゲッティングアウトに焦点を当てた
    文章、読んだことがありませんでした。
    私も一緒になって、ゲッティングアウトしている気分でした。
    (私の場合は、もっともっとドタバタ劇となってしまいますが…)

    『ゲッティングアウトには毎回違うドラマと結末があって、しかもそれは「サーフィング」という物語の序章にもすぎないのだ。』
    この一言が、心に深く残りました。
    素敵すぎます。

  3. no name

    読んでてその苦しさがすごく伝わってきました。
    苦労して波を乗り越えて、海面に上がったら目の前に倍のサイズの波が……やっぱり萎える瞬間ですよね。ゲットって、最後はやはり気力がものをいうのかなと思っちゃいます。
    しかし、船木さんでもパドルの漕ぐ深さは場合によって使い分けているんですね?。そこが見れたのも、興味深く、勉強になりました。

  4. TAKASHI

    疲れてヘトヘトになってもセットを食らいながら
    また沖へと戻っていく、波に乗りまた戻っていく、日常他の状況ではあまり考えられませんね

  5. てつ

    こんばんは。

    サーフィンが上手い人も、このようなコトを考えているんだ。ということを知りました。
    波に乗るまでも毎度いろいろなことがあります。特にチョッカリの私は、乗るまでも一苦労です・・・

  6. ふなき

    本当に奥深いです。
    これも波乗りの味わいの積層になるんでしょうね。
    日本海は波長が短いからダックダイブの回数が多くなるのでしょうね。

  7. ふなき

    文学としていただけることに感謝いたします。
    ただ、ゲッティングアウトを文字にすると軽く50枚(1万字)は書けそうです。
    誰も書いていないのが不思議なほどドラマがありますよね。
    前から人が来て轢かれそうになったりもしますし。(笑)

  8. ふなき

    パドルもダックダイブも大小長短深浅を使い分けています。
    考えて行動する、直観で感じる、という鍛錬にもなっています。

  9. ふなき

    昔は何度も「ああ沖までのリフトがあればなあ」と思っていましたが、今ではこのゲッティングアウトを楽しむようにしています。

  10. ふなき

    ドドゲ先輩と話したのですが、チョッカリの頃が一番楽しかったような気もします。
    何が起きるかわからない愉しみもその結果も今では笑い話です。