銀鯖道の夜
ジロバンニの切符36
「ああごらん、
あすこにタマサキが見える。
おまへはあの鎖を解かなければならない。」
そのときまつくらな水平線の向うから青白く光るものがやつて來て、
棧橋はすつかり明るくなりました。
そしてのろしは高くそらにかかつて光りつづけました。
「ああタマサキの星雲だ。
さあもうきつとぼくはぼくのために、
シギパネルラのために、
みんなのために、
ほんたうのほんたうの幸福をさがすぞ。」
ジロバンニは唇を噛んで、
そのいちばん幸福なそのひとのために、
タマサキの雲をのぞんで立ちました。
「さあ、
切符をしつかり持つておいで。
お前はもうこの銀鯖道の中でなしに本當の世界の火や、
はげしい波の中をまつすぐに歩いて行かなければいけない。
たつた一つのほんたうのその切符を決しておまへはなくしてはいけない。」
あの聲がしたと思ふとジロバンニは、
あの天の川がもうまるで遠く遠くなつて風が吹き、
自分はまつすぐに草の丘に立つてゐるのを見、
また遠くからタキビ神がしづかに近づいて來ました。
【古語解説】
本當、ほんたう=本当
聲=声
【解説】
あの鎖とは、
タマサキ・エリアのことを指している。
別の研究者の解析には、
タマサキのことを
上総・総州(かずさ・そうしゅう)としたものもあります。
つまり、
だれかがこの宇宙=タマサキを創造したことを、
ジロバンニに理解させようとしている章です。
「はたして人が、
鎖を解く=永続するものを創ることができるだろうか」
タキビ神はそのようにたずね、
人が宇宙の主権者と比べていかに劣っているかをジロバンニに痛感させようとされたのです。
ジロバンニはこのあと幾分平衡を欠き、
神よりも自分のほうが義にかなっているとほのめかすことさえしてしまいました。(ジロ35:2,3)
しかし、
オン父さまの助言や、
考えを矯正する法王の言葉によって、
ジロバンニは自分と神との間、
自分自身の不完全さと弱さ、
そして義や力の大きな相違を謙虚に認めました。(ジロ42:6)
(90へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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