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The Fish God Awakensー真実のサーフィングの夜明け_(4000文字)

THE FISHGOD AWAKENS

 ブラーフマナ文献で説かれる宇宙の根本原理であるブラフマンを人格神として神格化したのがブラフマーである。インド北部のアブー山に暮らしていたとされ、ここにはブラフマーを祭る大きな寺院がある。神々の上に立つ最高神とされ、「自らを創造したもの」と呼ばれ、宇宙に何もない時代、姿を現す前の彼は水を創り、その中に一つの種子・「黄金の卵(ヒラニヤガルバ)」を置いた。ジャスティン・アダムスは、このサーフィング世界にどんな種子を置こうとしているのか。

 奇才ジャック・コールマンをして”フィッシュゴッド”と異名を取る彼は30歳になった。生まれ育ったダナポイント付近のドヒニー、そしてソルトクリークやサンオノフレでサーフし、その異様に長い手足を活かした奇妙なロングターンは見る者に不思議な感覚を植え付ける。

 そして今日もフィッシュゴッドはサンオノフレの椰子の木の後ろに隠れるようにして駐車して、崩れかける寸前のトヨタトラックのキャンパー・シェルの内側にその痩せた大きな体を折りたたむようにして座り、波を見ていた。

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——波はどうですか?

「まあまあだね。きっと入ったら楽しいのだけど、ペソズの子どもたちも来ていないし、ここでのんびりしているよ」

 

——そこにフィッシュゴッドが座っていると、瞑想しているみたいに映るのだけど、実際はどんなことを考えているのですか?

「波のリーディング。ここ(フォードアーズ)はトリッキーな波質だから、沖から入ってくるセット波を見て、崩れる場所から乗っていけるところを予測して、それが正しいかどうかを学習している。波は習慣的なときもあるし、そうでないときはどうしてそうなったかの理由を見つけている。波を起こした風の強弱を感じながら、その波を創った過去にまでさかのぼっていた」

 

——そうやって波を感じているのですね。

「そうだ。波を知り、その波を観ぜながらマニューバーを与えている」

 

——それらライディングに対して優越を与えますか?

「ストップメイキングセンス(意味づけを止める)ということだね」

 

——それはどういう意味ですか?

「サーフィングとはそれぞれの表現だ。それに対して他人が評価するのは最もナンセンスだ。なので(サーフ)コンペティションは俺にとって意味をなさないもののひとつだ」

 

——その思想の背景には何があるのですか?

「何もないさ。波に乗って風になる。そして風になって無心になる。そんなことさ。無心になろうとして無心になるわけではなく、大事なのは普段から煩悩を取り払い無心に生きることだ」

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——あなたを見ていると欲しいものは少なさそうです。パドリングもゆっくりだし、波に対しても欲がなさそうで、あまり動かずに来た波に乗っているように見受けられます。

「それは波に対して聖者の道を見いだし、波長に委ねているからだろう。全てにおいての究極はミニマリズムだ。常にシンプルにしていくのさ。ボードだってあるものでいいし、なければボディサーフすればいい」

 

——フィッシュゴッドと言われていますけど、それはなぜですか?

「あれはジャック・コールマンが10年前に言い出したこと。俺がフィッシュばかり乗っているからそう言ったのか、または違うインスピレーションで彼がそう言ったのかは彼に聞いてみないとわからないけど、この愛称が浸透するまで10年かかった。言葉というのは呪縛みたいなもので、ひとたびその言葉を纏うと、その気持ちになってしまう。だからフィッシュゴッドと言われた日はフィッシュに乗ろう、そんな気持ちになるのは修行が足りないことでもあるのだろうね」

 

——ジャック・コールマンと旅していたと言っていたけど、それはどんなものでしたか?

「中米に行った。そのとき俺は大変な仕事が終わり、4500ドルを獲得した。これで当分サーフできると思っていた。そんなときジャックがやってきて、“ヘイ、スポンサーが見つかったから(サーフ)トリップに行こう。州外だからパスポートを持ってこい”そう言ってきた。気づいたら三ヶ月が過ぎていた。得たものは温かい海でサーフし続けた記憶と何分かの動画。戻ってきたらアパートは失っていたけど、そのおかげで今も毎日一日中サーフできる環境になった」

 

——どこでサーフしましたか?

「それはいろいろなところさ。コスタリカのサルサブラバ(デビルズダンジョン)にも行ったけど、間違ったボードで、それもすごい経験になったね」

 

——そのボードとは?

「ソフトトップ(キャッチサーフ7’オディシー)のフィンレス(笑)」

 

——あの激烈波にそれで入ったのは史上初だと思います…。

「でも乗れなかったからひどいめに遭っただけだね。(笑)

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——フィッシュゴッドのルーツはショートボードですか?

「どちらでも乗っていたけど、サーフィングとは周り、つまり他のサーファーの環境って大事なことさ。俺はロングボーダーたちのバイブスが好きで、波質がどちらともつかないときはロングボードのブレイク、うねりが大きくなれば硬い斜面でフィッシュに乗るのだろうか。または逆もある」

 

——何がフィッシュ(この場合はツイン版でのフィッシュ)の魅力ですか?

「短いレイルラインからクリエイトされるライディング・エモーションだろう。加速感、軸足から噴射するという感覚も悪くはないね。スクエアにターンをすると片側のフィンが海面を蹴立て、恐ろしいほどの勢いで波面を駆け上がっていく。そのエキサイトメントが魅力さ。フィンレスでは味わえない重力感覚がいい」

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——それではフィンレスはどうなのでしょうか?

「あの宇宙的な感覚。前に滑るだけでなく前後左右にも滑っていけるノー・トラクション。予期せぬ挙動が道となり、ときには自身を構成する要素となる。そう考えると、サーフィングの原理が内包されており、宇宙の万物の構成までがわかるときがある」

 

——それではサーフィングはフィンレスであるということですか?

「そうとも言えるし、そうとも言えない。サーフィングとは、本来は純粋な遊びとして誕生し、人間の持つエゴや社会システムへの適合の過程などで損傷しつつある人の気を再生させるものだと感じている。自己の心と身体を進化させ、または根源へ復帰させるものだ。サーフィングの理想は、利己を超えて本来の自己に立ち戻ること。この大自然に順応する永遠性から、悟りを得ることに至るという実践法がサーフィングの根底にあると思える」

 

——あなたはとても東洋的思想にあると思いますが、この南カリフォルニアのサーファーには珍しい考えというか、そのルーツはどこにあるのでしょうか。

「サーフィングという遊びのおかげで、海上にいる時間が増えた。自らの身体を浮かべて、彼方からの風からのメッセージである波に乗っていると、意識という非物質的な存在が増幅していくのさ。その意識はときに魂となり、俺の周りを漂ったり、取り囲んだり、またはどこかに遠くに行ってしまう。それをつなぎ止めておくためにまた波に乗る。その繰り返しさ」

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 フィッシュゴッドと話していると、たまに彼の視線が水平線に及ぶ。私もその方向に目を向けると、その次の瞬間——5秒後にうねりの筋が見えてくる。私も遠くから波を感じることができるのだが、その範囲を軽く超えているので、人間ではない超人さを改めて確認した。

 

——なぜあんなに遠くから波がやってくるのがわかるのですか?」

「そこまで難しいことではない。正しく波を観ずれば、自身にやってくる喜、つまり乗るべき波の到来がわかってくるものだ」

 

——クリスチャン・フレッチャーの取材をして、彼には逸脱(deviation)のことを聞きました。自分も同様に逸脱していると思いますか?

「自身が自身であるためには、世間との関係はもちろんあってはならないし、そして関与してはならない。俺を見て、それを逸脱というのなら社会が逸脱しているのだろうし、自分では逸脱しているというより求道していると捉えている。個々のプラクティス(何度も繰り返すことによる体系的な訓練)はそれぞれが持っているものだから、その定義やとり決めには興味がない」

 

——そのプラクティス法、つまりそれを私たちがサーフィングでやろうとするのならどのようにすればいいですか?具体的に教えてください。

「そうだね。まずはありのままの自分を見つめることだろう。波を見極める力や身体的な能力を知ることが重要だ。そしてサーフィングは海との修練をともなうものだから、恐怖を取り除くことも必要だ。そのためには膨大な時間を海と共にする習慣を持つといいだろう。しかしながら波に乗ることは愛着と執着なので、ここでもさまざまな状況を整理し、その場その場での教えを獲得していけばいい。それらの観念からサーフィングへの理解を深めることによって、社会的な囚われからも脱却すれば『達成』に向けての方向を知ることができるだろう。そしてそこからはさまざまな階層や枝分かれした道や路を探し出し、迷うことなくその道を進めばいい」

 

——いつも、ということですね。

「そうだ。永遠に波を想い、滑走を胸に抱くことだ」

 

——すばらしい言葉ですね。感動しました。

「その感動が全ての燃料となり、己を支えることだろう」

 

——最後になりますが、フィッシュゴッドにとって波乗りとは何ですか?

「己を開放し、束縛を切り離し、自在になること。それは愉楽であり、苦の原因を取り去るものでもある。さらには智慧を授けてくれて、永遠なる幸福を与え、生きる糧を獲得する何よりのもの。己の内面をさらに磨き、極めたい。

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(初出自、NALU 2015/7『革命と逸脱のサーファー』号より)

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