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naki's blog

【もうすぐ終了の特大号】私の波乗りの歴史_第15編_メキシコ、ジョー・マクナリティとハービー・フレッチャー_(3444文字)

連載企画です。

最初から読みたい方はこちらを

私の波乗りの歴史_第1回_(2282文字)

前回、14編はこちらです。

【再び特大号】私の波乗りの歴史_第14編_ピアとドノバン_デウス&モダニカによるLuftgekühltイベント_(3002文字)

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結局サンクレメンテの居心地が良かったようで、

思っていたよりも長く滞在することになった。

前出したドノバンではないが、

(波乗りしすぎて)

自分の持ってきたボードが原型をとどめなくなったこともあって、

クリス・ビリーが使用していた中古ボードを購入した。

この板は、当時としては斬新なほど短く、たったの5’8″だった。

この頃の日本は、センチ表記が主流で、

ファイブエイトといってもチンプンカンプンだったが、

サーフィンの本場の単位に慣れようと、

「自分のファイブテンよりも5センチ短い」

そんな感覚で覚えた。

さらにこのボードは、

当時流行し始めていた深いダブルコンケイブをエントリーロッカーから入れていて、

さらには超幅広の19インチとハーフ。

それは未踏だった49センチ超えのセンター幅だった。

短くて幅広、

そして深いコンケイブだと斜面に張り付いてしまい、

操作性は良くなるのだろうが、

速度が出ないというのがセオリー。

だが、そうはならないのが、

最先端のサーフボードシェイプで、

ソフトレイルと、テイル・リフト、

さらには全体的なフォルムで完全調整してあった。

ひとたび乗ると、よく走り、ターンも軽く、

さらには自分とのマッチングの楽しさに魅せられてしまい、

さらには日中のオンショア時でもボードは跳ねずにターンがつながっていった。

こんなサーフボードがあるのか!

そう感銘を受けた。

あえて乗り込まずに「日本の試合で使おう」と温存することとし、

ボロボード、しかも長めの6’8″でサーフを続けていた。

そんなとき、

突然ジョー・マクナリティがやってきて、

「今からメキシコに行こう。波いいぞ」

そんなことになった。

ジョーはテレンスの弟で、

マクナリティ兄弟の末っ子。

当初はテレンスと仲良くしていたが、

彼が面倒になって弟に私を押しつけた形だが、

ジョーは常におだやかで、

サーフィンについて知的な説明ができる人だった。

それが楽しく、彼とサーフする日が多くなっていた。

彼の家にあったサーファー誌を開くと、

トドス・サントスの35フィート波にテイクオフしている写真を見つけた。

キャプションを見ると、

Mexico Todos Santos

Hell Man Joe Mcnultyとあった。

ジョーがこんな波に乗っているとは夢にも思わなかったが、

サンクレメンテのサーファーは怪人だらけなので、

別段それが不思議でもなかった。

もしかすると、

これから行くメキシコはこの波なのかもしれない。

todos

Todos Santos, Greg Long

.

覚悟を決めたのだが、

体が小刻みに震えてしまい、

「その1週間くらい野宿する支度」

がはかどらなかった。

出発前に

「パスポートは持ったか?

国外に出ることを再確認され、

ジョーのネイビートラックは南に向かっていった。

そしてサンディエゴからメキシコ国境に入ると同時に、

ジョーがカセットテープを変えた。

カーコンポから流れてきたのは、

グレイトフルデッドのリップルだった。

If my words did glow

with the gold of sunshine

And my tunes

were played

on the harp unstrung,

Would you hear my voice

come through the music?

Would you hold it near

as it were your own?

It’s a hand-me-down,

the thoughts are broken,

Perhaps

they’re better

left unsung.

I don’t know,

don’t really care

Let there be songs

to fill the air.

Ripple in still water,

When there is no pebble tossed,

Nor wind to blow.

Reach out your hand

if your cup be empty,

If your cup

is full may it be again,

Let it be known

there is a fountain,

That was not made

by the hands of men.

There is a road,

no simple highway,

Between

the dawn and the dark of night,

And if you go

no one may follow,

That path is for

your steps alone.

.

カリフォルニア国境からのメキシコは、

危険な場所だと聞いていたので、

少し緊張していたが、

この曲を聴いた途端に気分が軽く、

明るくなっていった。

夕方のティファナの街は極彩色だらけで、

この音楽の効果からか、それがさらに濃くなって見えた。

目的地はトドスサントス付近のエンセナダ周辺で、

たかだか3時間弱の行程予定が夜の10時に到着したのは、

途中のレストランでジョーがパシフィコビールを飲みすぎたからだと思う。

(私は30歳まで酒が飲めなかった)

ジョーはその酔った運転で街を抜け、

砂利道をひた走り、

周囲何キロは何もない荒野の真ん中にトラックを停めるやいなや、

寝袋をごそごそとトラックの横に出して、すぐに眠ってしまった。

歯磨きをしなくてはならない

寒くなったら運転席キャビンで寝よう

でもこのシフトノブが邪魔だ

そんなことを考えていた。

用を足そうと外に出ると、

新月だったのか、

今まで見たことのない鮮明な星空が拡がっていた。

天の川とは、

ここまで明るいのかと興奮し、

眠れずにずっとそらを見上げていた。

ちなみに「そら」と平仮名にするのは、

この時からで、宇宙や空の両方を表現できると感じている。

朝になり、

ジョーも起きてきて歯磨きをしていると、

遠くの山の上から黒のピックアップトラックが降りてきた。

「行くぞ。荷物をまとめろ」

なんだか悪いことが起きる気がしたが、なぜかジョーはうれしそうだった。

そのトラックが近づいてくると、

それは往年の名サーファーのジャッキー・バクスターだった。

彼はジョシュの父親でもあり、

不良軍団の親玉でもある人だった。

「夜中にお前たちが来たのが見えたぞ」

「街の近くで眠ろうと思ったのですが、

危ないからこの敷地まで来てしまいました」

「それが良い、悪い奴はこの辺りにたくさんいるからな」

まるでハンソロとジャバザハットの会話である。

©STARWARS

ジャッキーは、

なぜか悪い単語であろうスペイン語を言いながら、

ジョーの話を打ちきり、

「良く来た」

そういって満面の笑顔でボクと握手した。

なんでもこの敷地と山全てが、

ジャッキー・バクスターが購入した土地で、

将来はここでホテルとかレストランをやりたいと、

広大なことを言っていた。

さらには、

「この前でもサーフできるんだぜ」

などと言って、

海が見える砂浜まで歩いて行くと、

ジョーとジャッキーは一瞥しただけで、

「良くない」と海に背を向けてしまった。

近所を車で走ると、

ポイントブレイクだらけで、

それらのほとんどは無人の極上波だったが、

水温がカリフォルニアよりも冷たく、

「南に来たのになぜ?」

そう聞いてみると、

「海流の関係でこっちのほうが冷たいんだ」

そうらしい。

そんなこんなの半野宿生活が始まり、

いい波に乗り、

おいしいメキシカンを食べ、

メキシコ最高という日が続いていた。

そんなある日、

ジャッキーの家でのんびりしていると、

「誰かが来た」

双眼鏡を持ったジョーがそう言うと、

それを受け取ったジャッキーがのぞき込み5秒ほどすると、

「なかなかおもしろいことになった」

ニヤリとして、

うれしそうに母屋に入っていった。

そのシボレーのボロバンはどこかで見たことがあって、

(前回のネイザン・フレッチャー登場の項)

中から出てきたのは、

サーフ界の親分であり、

不良魂マックスのハービー・フレッチャーと、

当時アストロデッキのサーフムービー

『ウェーブ・ウォリアーズ』を撮る相棒ジミーだった。

ハービーは、

後のドラグラ始皇帝になるのだが、

それはそのうちに書いていく。

Herbie_Fletcher_Pipeline

Herbie Fletcher 1964

Pipeline Side Slip Boogie

astrodeck_divine

Photo by Jeff Divine

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明日に続きます。