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naki's blog

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その6〈野ねずみたち〉_(2539文字)

この物語は、

宮沢賢治先生の「セロ弾きのゴーシュ」をオマージュしています。

わたしはいすみ市中原1−17−17で

——きっと賢治先生が持っていたであろう

「ホンヤクキ旧字出力版」

を手に入れてからというもの、

遅筆ですが、

このようにたまに執筆するようになりました。

『この世が幸福にならないと僕の幸せはありえません』

令和4年元日、宮沢鯖治

ミヤサバ先生はタキビ神のペンネームだと噂されているが、

編集部はここには公表しません。

文学はみなさんの想像力でお楽しみください。

バックナンバーが5つあります。

まだの方は順に読んでくださると、

この作品の世界観がわかるはずです。

文体がどんどん現代化していくのも。

バックナンバー:

『幸せのタローマン』その〈新滑走俱楽部〉

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その1_同時上映:キャッチサーフ祭_(1855文字)

『幸せのタローマン』その〈三毛猫ミヤア〉

【ドラグラ・プロダクションズ発ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その2_(2525文字)

『幸せのタローマン』その〈フィールザグライド〉

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その3”フィールザグライド”_(1332文字)

『幸せのタローマン』その〈さよならカッコウ〉

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その4〈さよならカッコウ〉_(1539文字)

『幸せのタローマン』その〈タヌキの子〉

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その5「狸の子」_(1981文字)

本編

『幸せのタローマン』その6

〈野ねずみたち〉

次の晩もタローマンは夜通しバリマギに乗つて

明方近く思わずつかれてグラブレイルしたままうとうとしていますと

また誰か扉をこつこつと叩くものがあります。

それもまるで聞こえるか聞こえないかほどの音でしたが、

これも物語のお約束のことなので、

ドリフの舞台のように

タローマンはすぐに「おはいり」と、

おおごえで言いました。

すると、

ほんのちいさく戸が開いてはいって来たのは一ぴきの野ねずみでした。

そして、

ちいさなこどもをつれてちょろちょろとタローマンの前へ歩いてきました。

そのまた野ねずみのこどもときたらまるで、

けしごむの大きさくらいしかありませんでした。

そのかわいいのが動いていることだけでタローマンはおもわずわらいました。

すると野ねずみは何をわらわれたろうというようにきょろきょろしながらタローマンの前に来て、

青い栗の実を一つぶ前においてちゃんとおじぎをして言いました。

「先生、この児があんばいがわるいのですが、

どうぞなおしてやってくださいまし」

「ボクはなおせないよ。

みなみかわぞえの宇賀くんなら鉄をなおすけどね」

タローマンはそう言いました。

すると野ねずみのお母さんは、

下を向いてしばらくだまっていました。

ようやくたったころに思い切ったようにこう言いました。

「それはうそでございます。

先生はみなさんのご病気をなおしたではありませんか」

「何のことだかわからないよ」

「だって、先生のおかげで、

ネコのミヤアさんもなおりましたし、

かっこうさんも、狸さんもなおりました」

「おいおい、それは何かのまちがいだよ。

おれはミヤアの病気はなおしてやったことはないからな。

もっとも狸の子はゆうべ来てバリマギをして行ったがね。ははん」

タローマンは気がつきました。

ここでバリマギに乗ると、

病気がなおるのかと気がつきました。

「よし、わかったよ。やってみるか」

タローマンはバリマギを床において、

それからいきなりのねずみのこどもをつまんでバリマギのうえに乗せてしまいました。

「わたしもいっしょに乗ります。どこでもそうですから」

あわてておっかさんの野ねずみもバリマギに乗りました。

「それじゃぼくが乗れないよ」

バリマギの大きさをかくにんしたおっかさんのねずみは、

仕方なくバリマギからおりました。

タローマンはバリマギの上に乗って、

豪州にやってきたサイクロンのセスの波をそうぞうして乗りました。

何本も何本も乗って、

アッシャー・ペイシーが5時間サーフしたときくらい乗りました。

すると、

おっかさんのねずみはとうとうこらえ切れなくなったふうで、

「もう大丈夫です。どうか降ろしてやってください」

と言いました。

「なあんだ、これでいいのか」

タローマンはぜいぜいいいながらもまだバリマギの上にたっていました。

こどものねずみがバリマギからようやくというか、

なんとか降りました。

タローマンはだまってそれを見ていると、

こどものねずみは、

すっかり目をつぶってぶるぶるぶるぶるふるえていました。

「ダイジョウブ?」

しんぱいになったタローマンはこどものねずみに聞くのですが、

とてもこわかったようで、

まだしばらく眼をつぶったままぶるぶるぶるぶるふるえていましたが、

にわかに起きあがって走りだしました。

「ああよくなったんだね。ありがとうございます。ありがとうございます!」

おっかさんのねずみはうれしそうにいっしょに走っていましたが、

まもなくタローマンの前に来てしきりに

「ありがとうございますありがとうございます」

と十ばかり頭をさげて言いました。

タローマンはうれしくなって、

「おい、おまえたちはウツボはたべるのか。ウツボのタタキだよ」

と言いました。

おっかさんのねずみはびっくりしたようにきょろきょろあたりを見まわしてから

「いえ、ウツボというものは堤防のうえにおいてあったりして、

ふくふくとたいへんおいしいもですが、

お世話になりながらさらにいただきものはあんまりでございます」

と言いました。

「ではたべるんだね。ハイカラMも大好きだからさ。

なんたってあいつはミシンでウツボを作っていたけどね。

このウツボをみんなにあげようと思ったんだよ」

タローマンはバリマギから降りて、

流しからウツボををつかんでやってきて、

野ねずみたちの前へ置きました。

おっかさんのねずみは、

泣いたり笑ったりしながらたくさんのおじぎをすると、

「ボクはソウアンでお餅つきをしてさ、たくさん食べておなかがいっぱいなんだよ」

タローマンははずかしそうにそう言いました。

「うでがキンニクツウだよ」

さらにそう言いましたからおっかさんのねずみは、

何とこたえて良いのかわかりませんでした。

けれども、

おっかさんのねずみは大じそうにウツボのタタキをくわえ、

こどもをさきに立てて戸の向こうへ出て行きました。

「あああ。また今夜もなかなかつかれたぞ」

タローマンはねどこへどっかり倒れて、

すぐにぐうぐうとねむってしまいました。

最終編に続く!

(ミヤサバ先生注釈:最終編は2月中旬予定でございます。

風向きがよろしければそのころだと思われます….)