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【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その3”フィールザグライド”_(1332文字)

この物語は、

宮沢賢治先生の「セロ弾きのゴーシュ」をオマージュしています。

わたしはいすみ市中原地区で

(きっと賢治先生が持っていたであろう)

「ホンヤクキ旧字出力版」を手に入れてからというもの、

遅筆ですが、

このようにたまに執筆するようになりました。

『この世が幸福にならないと僕の幸せはありえません』

令和3年、宮沢鯖治

【ドラグラ・プロ:宮沢鯖治先生】

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その1_同時上映:キャッチサーフ祭_(1855文字)

【ドラグラ・プロ:宮沢鯖治先生2】

【ドラグラ・プロダクションズ発ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その2_(2525文字)

3.

次の晩もタローマンがまた黒い包みをかついで帰ってきました。

そして水をごくごくのむと、

そっくりゆうべのとおり、

ぐんぐんとクネクネとバリーマッギーに乗りはじめました。

十二時は間もなく過ぎ、

一時もすぎ、

二時もすぎてもタローマンはまだやめませんでした。

それからもう何時だかもわからず、

ボードに乗っているかもわからなくなって、

クネクネやっていますと、

屋根裏をこっこっと叩くものがあります。

「ミヤア、また来たのか」

タローマンが聞くと、

天井の穴からぽろんと音がして、

灰いろの鳥が降りて来ました。

よく見るとそれはかっこうでした。

「鳥まで来るなんて。何の用だ」

「サーフィンを教えてあげましょう」

かっこうはすまして言いました。

タローマンは笑って、

「サーフィンだと。おまえらが波に乗るとは思えないよ」

すると、

かっこうが大まじめに

「ええ、それなんです。けれどもむずかしいですからねえ」

と言いました。

「むずかしいもんか。おまえたちのは、ただ飛んでいるだけで、何でもないじゃないか」

「ところがそれが違うんです。たとえばクネクネと乗るのと、グネグネと乗るのとではよほどちがうでしょう」

「ちがわないね」

「ではあなたにはわからないんです。わたしらのクネはそれぞれみんなちがうんです」

「勝手だよ。そんなにわかってるなら何もおれのところへ来なくてもいいではないか」

「ところが私は美しい滑走ができるのです。フィールザグライドです」

「フィールザグライドなんか関係ないね」

「いえ、波や風に乗るときは美しくに乗るものです」

「そうなの?」

「わたしらの仲間はそういうものです。かっこ悪いといじめられます」

「へぇ」

「フィールザグライドをおぼえてクダサイ。わたしが見本をお見せしますから」

「わかったよ。やればいいんだろう」

タローマンは床の上でテイクオフして波乗りの格好をしました。

まるでカエルがすわるように両膝がひらいています。

すると、かっこうはあわてて羽をばたばたしました。

「ちがいます、ちがいます。そんなんでないんです」

「うるさいなあ。ではおまえがやってごらん」

「こうですよ」

かっこうはからだをまっすぐにし、

背中を反らして両ほうの羽根を拡げました。

「何だい。それがフィールザグライドかい。

おまえたちには、フィールザグライドというのはトム・カレンなんだね」

「それはちがいます」

「どうちがうんだ」

「むずかしいのは、風や波を読んでこれを続けることです」

「つまりこうだろう」

タローマンはトム・カレンの真似をしました。

するとかっこうはたいへんよろこんで、

また羽根をぴんと張って左右に揺らしました。

タローマンはうれしくて、

一生けん命からだをまげていつまでもこの形をするのです。

こちらの4に続く↓

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その4〈さよならカッコウ〉_(1539文字)