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【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その4〈さよならカッコウ〉_(1539文字)

この物語は、

宮沢賢治先生の「セロ弾きのゴーシュ」をオマージュしています。

わたしはいすみ市中原1−17ー17で

(きっと賢治先生が持っていたであろう)

「ホンヤクキ旧字出力版」を手に入れてからというもの、

遅筆ですが、

このようにたまに執筆するようになりました。

『この世が幸福にならないと僕の幸せはありえません』

令和3年10月、宮沢鯖治

【ドラグラ・プロ:宮沢鯖治先生】

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その1_同時上映:キャッチサーフ祭_(1855文字)

【ドラグラ・プロ:宮沢鯖治先生2】

【ドラグラ・プロダクションズ発ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その2_(2525文字)

【ドラグラ・プロ:宮沢鯖治先生3】

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その3”フィールザグライド”_(1332文字)

4.

タローマンはとうとう疲れてしまい

「こら、いいかげんにおわりだ」

と云いながらやめました。

するとかっこうは残念そうに眼をつりあげて

「……かっこうかくうかっかっかっかっか」

と云いました。

タローマンは

「とり、もう用が済んだらかえれ」

と云いました。

「どうかもういっぺんやってみてください。

あなたのはいいようだけれどもすこしちがうんです」

「ではこれっきりだよ」

タローマンは腕立てふせの姿勢をしました。

かっこうは「くっ」とひとつ息をして

「ではなるべく永くおねがいいたします」

といってまた

「かっこうかっこうかっこう」

とからだをまげてじつに一生けん命叫びました。

タローマンはいつまでもつづけて乗っているうちに

かっこうのフィール・ザ・グライドの方がかっこいいような気がするのでした。

「こんなばかなことしていたらおれはだめになるよ」

タローマンはいきなりぴたりとフィール・ザ・グライドをやめて

バリマギを置きました。

するとかっこうは恨めしそうにタローマンを見て

「なぜやめたんですか。

ぼくらならどんな意気地ないやつでものどから血が出るまでは叫ぶんですよ」

と云いました。

「見ろ。夜があけるんじゃないか」

タローマンは窓を指さしました。

東のそらがぼうっと銀いろになって

そこをまっ黒な雲が北の方へどんどん走っています。

「ではお日さまの出るまでどうぞ。

もう一ぺん。ちょっとですから」

かっこうはまた頭を下げました。

「黙れっ。いい気になって。このばか鳥め。

出て行かんと朝飯に食ってしまうぞ」

タローマンはどんと床をふみました。

するとかっこうはにわかにびっくりしたように

いきなり窓をめがけて飛び立ちました。

そして硝子にはげしく頭をぶっつけてばたっと下へ落ちました。

「何だ、硝子へばかだなあ」

タローマンはあわてて立って窓をあけようとしましたが

元来この窓はそんなにいつでもするする開く窓ではありませんでした。

タローマンが窓のわくをしきりにがたがたしているうちに

またかっこうがばっとぶっつかって下へ落ちました。

見ると嘴(くちばし)のつけねからすこし血が出ています。

「いまあけてやるから待っていろったら」

タローマンがやっと二寸(5cm)ばかり窓をあけたとき、

かっこうは起きあがって

何が何でもこんどこそというようにじっと窓の向うの東のそらをみつめて、

あらん限りの力をこめた風でぱっと飛びたちました。

もちろんこんどは前よりひどく硝子につきあたって

かっこうは下へ落ちたまましばらく身動きもしませんでした。

つかまえてドアから飛ばしてやろうとタローマンが手を出したら

いきなりかっこうは眼をひらいて飛びのきました。

そしてまたガラスへ飛びつきそうにするのです。

タローマンは思わず足を上げて窓をばっとけりました。

ガラスはものすごい音がして砕け窓はわくのまま外へ落ちました。

そのがらんとなった窓のあとをかっこうが矢のように飛んでいます。

そしてもうどこまでもどこまでもまっすぐに飛んで

とうとう見えなくなってしまいました。

タローマンはしばらく外を見ていましたが、

そのまま倒れるように室(へや)のすみへころがって睡ってしまいました。

(↓続きの5はこちら↓)

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その5「狸の子」_(1981文字)