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naki's blog

【ドラグラ・プロダクションズ発ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その2_(2557文字)

膝が治ってきた。

よって、

ボードとの距離が近しくなり、

波との親和を図ることしばしでござる。

この文体なのは、

平安時代の文章を読んでいたからでありましょう。

これが未来。

そう思ったらそうではなく、

最近オーストラリアに出来たウエーブプールだ。

水色よろしき夢世界。

さて、今日はミヤサバ先生の『幸せのタローマン』の続編を。

この原稿を以前、

先生からいただいて、

あまりの量に分割掲載としようとなり、

その1をここに掲載したのは今は昔。

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その1_同時上映:キャッチサーフ祭_(1855文字)

新字旧かなで書かれたものなので、

大正文学ファンにはたまらなかったのだが、

この2からはドラグラ・プロダクションズが編集し、

「新字新かな」といたしました。

実際には、

宮澤賢治さんの名作

『セロ弾きのゴーシュ』がベースとなった物語です。

波乗りへの熱が、

板の間(いたのま)の軋(きし)みとなって、

フクロウの鳴き声がこだまする。

そんな楽しい時間となれば幸いです。

『幸せのタローマン』

2.

その晩遅く、

タローマンは何か巨(おお)きなものをしょって

じぶんの家へ帰ってきました。

家といっても

それは浦ノ内の奥にある古い小屋で、

タローマンはそこにたった一人ですんでいました。

朝は小屋のまわりで軽自動車を整備したりして、

どこかのモーニングが食べられる時間になると、

サーフボードを積んで出て行っていたのです。

タローマンがうちへ入ってあかりをつけると、

さっきの大きな緑色の包みをあけました。

それは包みではなく、

ハイカラ・マコト特製の防水バッグで、

中から出てきたのは、

キャッチサーフのバリーマッギーでした。

タローマンはそれを床の上にそっと置くと、

いきなり棚からコップをとって水をごくごくのみました。

それから頭を一つふって椅子へかけると、

まるで虎みたいな勢いで、

バリーマッギーにサーフィンのワックス、

滑り止めを塗りはじめました。

ノーズにワックスを塗ってはこすり、

考え考えては塗り、

一生けん命にテイルまで行くと、

またはじめ、

ノーズからなんべんもなんべんもさらさらと塗りつづけました。

顔もまっ赤になり、

眼もまるで血走って、

とても物凄い顔つきになり、

いまにも倒れるかと思うように見えました。

そのとき、

誰かうしろの扉をとんとんと叩くものがありました。

「誰だい、エイジさん(タヌキ親分)でしょうか、あ、そうか宇賀君か」

タローマンは叫びました。

ところがすうと扉を押してはいって来たのは、

ビニールハウスの角にいる三毛猫でした。

小さなガシラ(カサゴ)をさも重そうに持って来て

タローマンの前におろして土佐弁で云いました。

「よいよだれたね。まっこと運ぶんはこたうちや

(ああくたびれた。なかなか運搬は疲れるね)」

「何だと」

タローマンがききました。

「これおみやです。たべてください」

三毛猫が云いました。

タローマンは昼からのむしゃくしゃがあり、

こうなってはいけないとは知りながら

「怒り」「異見」のモードになってしまいました。

「誰がきさまにガシラなど持ってこいと云った。

第一おれがきさまらのもってきたものなど食うか。

ばいきんとか細菌がすごいから人間には毒になる。

それからそのガシラだって何だ。こんな小さなものを獲つて。

いままでもネイリ(ハマチ)の仔をけちらしたりしたのはおまえだろう。

お前なんか明徳の港へ行ってしまえ。

あそこには今5匹いるから仲良くしろよ」

すると三毛猫は肩をまるくして眼をすぼめてはいましたが、

口のあたりでにやにやわらって云いました。

「タヌさま、そうお怒りになっちゃ、おからだにさわります。

それよりセス・モニーツの墜落ドロップを見ましょうよ」

「生意気なことを云うな。ねこのくせに。

なんで俺がタヌなのを知っているんだよ」

「私の名前はミヤアと言います。

拗音(ようおん)のミャアではなく、

キヤノンと同じ直音でミヤア、3音節で発音してください」

タローマンは石川啄木の誌が大好きなので、

文学系なのでしゃくにさわったのですが、

ミヤアの後ろに見えるスマートフォンが見えたので、

これについて論議(ろんぎ)するよりも

そのセスのドロップが見たくなってしまいました。

タヒチCTセミファイナルは今日の予定でしたから。

「検索でWSL、そう、そして….」

三毛猫ミヤアの持っていたのは、

iPhoneでしたからタローマンはうれしそうに画面をさわっています。

「では(映像を)流すよ」

セス・モニーツのドロップは噂通りすごいものでした。

これがルーキーで、

次世代のすい(粋)だ、

種ですと、

アナウンサーがまくしたてていたので、

きっとそうなのでしょう。

じじつ、レイルを下にして、

重力と共にあの波の斜面に飛び込んでいくことにはこうふんしました。

タローマンは何と思ったか、明かりを消しました。

すると外から二十日過ぎの月のひかりが、

室のなかへ半分ほどはいってきました。

タローマンはバリー・マッギーの上にのって

右手でレイルを持ちセスのマネをしていました。

「もっと内側にしぼりこみます」

ミヤアが云うと、

は、

とこちらに顔を向けたタローマンは、

顔をまっ赤にしながら後ろの腰あたりから、

膝に力を入れました。

でも、

どうしてもなぜだか膝が開いてしまうので、

セスのようなポーズにはならずに、

悪く言うところの滑稽(こっけい)なスタイルに見えるのでした。

「これでどうだい」

「ラリー・バートルマン、アラモアナ・ボウルズ」

猫は口を済まして云いました。

Herbie Fletcher

Photo by Art Brewer

.

なぜなら1970年代のサーファーは、

みんなこう膝を開いていたものですから。

「そうか。ラリー・バートルマンというのはこういうのか」

タローマンはまたもや検索画面をひらいています。

何と思ったか、

まるで嵐のような勢いで、

椅子とかテーブルを使って、

胸くらいの高さにしたと思ったら、

そこにバリー・マッギーを立てかけ、

その上にそっと立ち上がり、

「ラリー・バートルマンのチョープー・ドロップだよ」

などと言いながらそのことをを再現しはじめました。

するとミヤアはしばらく首をまげて見ていましたが、

眠くなったのでねぐらに帰ることにしました。

タローマンは扉をあけて、

ミヤアが風のように小径を走って行くのを見てちょっとわらいました。

(3へ続く)

(3に続く)