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naki's blog

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その5「狸の子」_(1981文字)

この物語は、

宮沢賢治先生の「セロ弾きのゴーシュ」をオマージュしています。

わたしはいすみ市中原地区で

——きっと賢治先生が持っていたであろう

「ホンヤクキ旧字出力版」

を手に入れてからというもの、

遅筆ですが、

このようにたまに執筆するようになりました。

『この世が幸福にならないと僕の幸せはありえません』

令和3年、宮沢鯖治

タキビ神の御ペンネームがミヤサバ先生だと噂されているが、

編集部は秘密を守る部ですのでここに公表いたしません。

この作品はフィクションです。

実在の人物・団体とはまったく関係ありません。

あらかじめご了承ください。

文学はみなさんの想像力でお楽しみください。

この『幸せのタローマン』には、

バックナンバーが4つあります。

まだの方は順に読んでくださると、

この作品の世界観がわかるはずです。

バックナンバー:

『幸せのタローマン』その〈新滑走俱楽部〉

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その1〈新滑走俱楽部〉_同時上映:キャッチサーフ祭_(1855文字)

『幸せのタローマン』その〈三毛猫ミヤア〉

【ドラグラ・プロダクションズ発ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その2_(2525文字)

『幸せのタローマン』その〈フィールザグライド〉

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その3”フィールザグライド”_(1332文字)

『幸せのタローマン』その〈さよならカッコウ〉

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その4〈さよならカッコウ〉_(1539文字)

本編

『幸せのタローマン』その5

〈タヌキの子〉

次の晩もタローマンは夜中すぎまでバリマギに乗ってつかれて水を一杯のんでいますと、

また扉をこつこつ叩くものがあります。

今夜は何が来ても追い払ってやろうと待ちかまえていると、

扉が開いて狸の子どもがはいってきました。

反射的に

「こら、狸、おまえは狸汁を知っているか?」とタローマンは聞きました。

すると狸の子はぼんやりした顔をして、

きちんと床へ座ったままどうもわからないというように首をまげて考えていましたが、

しばらくたってからようやく 「ぼくはタヌキジルってしらないよ」と言いました。

タローマンはその顔を見て思わず吹き出そうとしましたが、

無理にこわい顔をして、

「タヌキジルというのはな、

タヌキをキャベツとニンニクと、

春野産の生姜と煮たおいしいものだぞ」と言いました。

すると狸の子は、

「だってぼくのお父さんがね、

タローマンさんはとてもいい人だからと言っていました」

とまたふしぎそうに言うので、

タローマンは笑い出してしまいました。

でもおれから何を習えと言ったんだろうか?

スケートボードのことかな。

眠いから南川添の鉄工所にでも行けばいいのに。

そんなことをぼんやりと考えていますと、

狸の子は決心が付いたように前へと出ました。

「ぼくはバリマギに乗れるようになりたいんです」

「どこにもキャッチサーフがないじゃないか」

狸の子は背中から紙きれを出して拡げると、

それはキャッチサーフのバリマギと同じような大きさのサーフボードの形をしていて、

ところどころ破けていますが、

きちんとダクトテープで直してありました。

「それで波に乗るのかい」

「いいえ。いつか乗る日のためにぼくが作りました」

タローマンはそれを手にとってわらい出しました。

なんだか全てがかわいかったからです。

「ふう、変なヤツだなあ。よし、まあいいか。

おまえはおれのバリマギに乗ってこれから練習していいよ」

タローマンは、

狸の子をちらちら見ながらバリマギに乗りはじめました。

すると狸の子は、

先ほどのサーフボード型の紙切れをバリマギの横において、

クネクネとしはじめました。

それがなかなかうまいので、

タローマンはこれはおもしろいぞ、

ジローくんと合わせて、

タヌジローという二人組を結成して売りだそうと思いました。

タローマンの本業は、

移動に関わるもの関連の販売ですので、

じっさいには思うだけのことでした。

クネクネしたあと、

狸の子はしばらく首をまげていました。

それからやっと考えついたというように言いました。

「タローマンさんが、

セカンドセクションをクネるときは少し遅れるように感じました」

タローマンは、はっとしました。

たしかにそのクネはどんなに急いでも動きが悪い気が、

ゆうべからしていたのでした。

「いや、そうかもしれない。このバリマギは悪いんだよ」

とタローマンはかなしそうに言いました。

すると狸の子は気の毒そうにしばらく考えていましたが 、

「どこが悪いんだろうなあ。ではもう一ぺんクネってくれますか?」

タローマンはたいてい前向きです。

「いいとも。ではやるよ」

そう言いながらクネリはじめました。

狸の子はさっきのように一緒にクネリながら時々頭をまげて、

バリマギに耳をつけるようにしました。

そして八十八本目まで来たとき、

東のそらがぼうと明るくなっていました。

「夜が明けてしまいました。どうもありがとうございました」

狸の子は大へんあわてて紙きれをたたんで、

それをせなかに入れて、

深く長いおじぎをすると、

急いで外へ出て行ってしまいました。

タローマンはぼんやりして、

しばらくゆうべのこわれたガラスからはいってくる風を吸っていましたが、

お隣の高知新聞の金山さんが帰って来るまで睡ろうと、

急いで似鳥製の布団へもぐり込みました。

6に続く。

続編

【ミヤサバ作】『幸せのタローマン』その6〈野ねずみたち〉_(2539文字)