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3.8フィートの週末 第一章 / レイ・ライン / 片岡鯖男_(2845文字)【ドラグラプロダクションズ製作】

38フィートの週末

  片岡鯖男

一章 レイ・ライン

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僕がこの小屋にやってくるようになったのは去年の夏だ。
ここは横浪半島の内側にある浦ノ内湾内にあり、
過疎化の典型的な場所で全くもって無人世界である。
ここに1日いると、
会う人は、たいてい決まっている。
まずは6時40分にやってくる3匹の犬を散歩させる漁師のおじさんご家族。
6時50分には、高知新聞浦ノ内販売所所長の金山さん。
お話を伺うと、朝3時から配達されているという。
昔も今も新聞配達というのは、労働のキーワードであり、勤勉の証明という職業だ。
お気をつけて、応援しています。
浦ノ内付近のみなさん(タローマン)へ、ぜひ高知新聞を定期購読してください。

今ならもれなく夢枕獏さんが執筆する『白鯨』が毎日読めます。
〈土佐清水市出身のジョン万次郎と、同世代を生きた
エイハブ船長(ハーマン・メルビルの「白鯨」)の物語〉
夢枕さんは、
「もし万次郎がエイハブ船長と会っていたら…」
という着想を得たという。
こんな作品と、カノアの優勝翌日の記事のご縁。
そんなすべての結実を結んだ金山さんにありがとう。
そんな場所にあるこの小屋は、
河合さんががしら亭の森本さんから受け継ぎ、そして僕たちはここに滞在している。

パステル・カラーの夜明けだった。
そんなこの地を起点にし、僕たちをひとつにまとめている中心的な存在は、
今年で1244歳になった空海という存在だ。
6月15日に1245年となられる。
空海は、
高野山でまだ生きているとされているため、存在していると僕たちは信じている。
この空海が、いまの僕たちの生活を支えてくれている。
もちろん金銭的に、ではなくて心の支えということでだ。
この小屋からは竜岬が目の前に見える。
竜岬の、
有緑かつ景勝の地に空海が、
弘仁6年(815)に創建した青龍寺がある。
真言密教の奥義『両界曼荼羅(金剛界と胎蔵界)』
灌頂(かんじょう=正当な継承者となったこと)
を唐の絶頂期(当時の世界最大都市)で受けた空海が帰国すると、
その偉業に対して嵯峨天皇が、
「空海よ、おぬしの好きなところに寺を建てよ」
と勅し、
空海が感得した地が現在は青龍寺、奥の院となっている。

ここに祀られているのが波切り不動明王。
不動明王に唱える真言が、
「のうまくさんまんだ ばざらだん せんだ まかろしゃだ そわたや うんたらた かんまん」
となっていて、その意味は、
「三千世界にあまねく金剛界の不動明王のあなたさま 悪や怒りをどうぞ粉砕してください」
ということらしい。

 

 

じつは奥の院と、この小屋は、レイ・ラインでつながっている。
レイ・ラインというのは太陽のラインのことで、
千葉の太東岬や一ノ宮海岸から始まる陽光の線は、
それぞれ天城山、御前崎、熊野大社、
室戸岬、足摺岬、霧島神宮に続き、
一ノ宮の玉前神社から始まったレイ・ラインは、
東経0度、つまり春分の日に寒川神社、
富士山、元伊勢、出雲大社へと抜けていくという。
さらに伊勢神宮、先ほどの高野山、諏訪大社に続くものがある。
このライン上にパワー・スポットがあるのかもしれない。
少しずつ動く陽の位置というのもこの小屋にいると知ることができる。
ここに来たときは竜岬から上がっていたけど、
今は宇佐大橋側に移動しているといった具合である。
レイ・ラインを探していると、こんな事実に突き当たった。
まずはこの青龍寺の奥の院と、この小屋をつないでみた。
辛(かのと)の方角中央だった。

辛は、十干の八番目であり、
陰陽五行説では金性の陰に割り当てられ、よって日本では「かのと」(金の弟)ともいう。
さらに辛の字は、同音の「新」につながり、新しい世代という意味だという。

その、かのとラインを奥の院から引き延ばしていくと、
長崎県対馬、
豊玉町仁位55の『和多都美神社』に抜けた。
(対馬は、『古事記』の建国神話で、
最初に生まれた「大八洲」の一つとして『津島』と記され、
『日本書紀』のなかには「対馬洲」「対馬島」の表記で登場している)
この神社は彦火々出見尊と豊玉姫命を祭神に祀っていて、
竜宮伝説が伝わる地だとあった。
本殿正面に鳥居が5つあり、
そのうち2つが海中に立っているという。

ここに祀られている豊玉姫は、
神武天皇(初代天皇)の母などを産んだ玉依姫(玉前神社)の姉で、
龍の化身だったという伝承が多くある。
(『古事記』では八尋和邇〈ワニ〉。高知県オーテピア調べ)
そんな空海の青龍と豊玉龍の地で僕たちは生きている。
いわばドラゴンライフというのはおこがましいが、まあ、そんなところだろう。

僕はサーフィンのチャンピオンになったことがある。
自分がデザインしたサーフボード、
あるいは、
サーフボードに取り付けるフィンのデザインをメーカーと契約したり、
トランクスやウエット・スーツに自分の名前を提供して名義使用料をとったり、
たいした額ではないけれど収入は収入だから、
それを自分自身をも含めた僕たちのグループに投資して、
「波に乗り続ける」ということの手助けにしている。
僕は、
バレル(筒)状になった波のなかをサーフボードに乗ってくぐり抜けるのが、究極のサーフィンだと思っている。
だから、
それにちなんで「バレルライダーズ」という名前の会社を作った。
オフィスはそれぞれの家だったり、カフェだったり、またはこの小屋だったりする。
サーフィンに関する総合的なセンターみたいなものを、僕たちは目ざしている。
サーフィンにまつわることを映像にする仕事も、僕たちはおこなっている。
執筆もそのひとつで、
表記も意味を多くしたいから漢字を平仮名にしている。
漢字から片仮名へもする。
波。
海。
板。
鯖。
鳥。
夢。
螺旋。
坂本太郎。
龍。
見ればひと目でわかる、その意味で理解できる漢字が、
ナミ、ウミ、イタ、サバ、トリ、ユメ、ラセン、タローマン、リュウ、
となってしまう。
平仮名にとどめず、さらにそれを越えて片仮名にした理由は、僕には見当もつかない。
漢字を片仮名で書くことの正当な根拠というものが、どこかにあるのだろうか。
言葉についても、まったくおなじだ。
広い概念にしろ端的な具体物にしろ、
真の理解はまた別のこととして、
「どのような言葉、音でも真意は伝わる」
そんな空海の言葉が浮かび上がってくる。

『3.8フィートの週末』をこのかたちへと引き出したのは、
何をかくそう河合さんだ。
こうしてここに掲載されるまでのNAKISURFと、
摂政瀧朗との連絡作業のいっさいを、彼が担当した。
彼の示す判断の正しさと純粋な熱意だ。
僕はいろいろなものを書いてきたが、
この『3.8フィートの週末』が、
これまでのどれよりも良いと思えてならない。
雨が降ってきた。
波は午後からの干潮が良いだろうか。
この小屋から竜岬のあいだにある内海の凪いだ海面は、
潮目がゆっくりと、龍の模様をつけながら青龍寺のほうに吸い込まれていった。
そうか、ちょうど今日はお不動さまの日だ。
(2019/05/28)

Happy Surfing!!