透明なサーファー
一
(新字新仮名)
わたしたちは、光る波を疲れるほど乗らないでも、
きれいにすきとおった風をたべ、
桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、波の上で、
ひどいぼろぼろのサーフボードが、
いちばんすばらしい宝石いりのサーフボードに、
かわっているのをたびたび見ました。
わたくしは、そういうきれいな魂やボードをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、
みんな岬や河口やビーチやらで、
虹や透ける波からもらってきたのです。
ほんとうに、イーハトーブの青い龍が浮く朝陽を見たり、
大きな波の風のなかに、ふるえながら立ち向かったりしますと、
もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。
ほんとうにもう、
どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、
わたくしはそのとおり書いたまでです。
ですから、
これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、
ただそれっきりのところもあるでしょうが、
わたくしには、その見わけがよくつきません。
なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、
そんなところは、
わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、
わたくしは、これらの小さなものがたりの幾きれかが、
おしまい、あなたのすきとおったほんとうの魂になることを、
どんなに願うかわかりません。
(新字旧仮名)
わたしたちは、ひかる浪をほしいくらゐもたないでも、
きれいにすきとほつた風をたべ、
桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、浪の上で、
ひどいぼろぼろの浪板が、
いちばんすばらしい宝石いりの浪板に、
かはつてゐるのをたびたび見ました。
わたくしは、
さういふきれいなたましいや浪板がすきです。
これらのわたくしのおはなしは、
みんなみさきや川のところや砂の浜やらで、
虹やとうめいの浪からもらつてきたのです。
ほんたうに、イーハトーブの青龍を、見かけたり、
おおきな浪のなかに、ふるへながら立つたりしますと、
もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。
ほんたうにもう、
どうしてもこんなことがあるやうでしかたないといふことを、
わたくしはそのとほり書いたまでです。
ですから、これらのなかには、
あなたのためになるところもあるでせうし、
ただそれつきりのところもあるでせうが、
わたくしには、そのみわけがよくつきません。
なんのことだか、わけのわからないところもあるでせうが、
そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、
おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうの魂になることを、
どんなにねがふかわかりません。
令和元年六月二五日 宮鯖賢治
【透明なサーファー:序文】
Happy Surfing!!
by Dragon Glide Productions
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