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3.8フィートの週末1-5 ハワイ・ハナレイ編 / 片岡鯖男_(1639文字)【ドラグラプロダクションズ製作】

3.8フィートの週末

片岡鯖男

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1-5

ハワイ・ハナレイ編

僕のサバットの前を走っていたクリーム色のステーション・ワゴンは、

コロアタウンの中で海側に曲がっていった。

曲がっていくときに僕は運転席の人を見た。

なぜなら、

その車は亡くなってしまった友人が乗っていたのと同型同色。

なので、もしかすると、

そんな気持ちで見てしまったのかもしれない。

前方の視界からフォードのワゴンが消えていった。

うしろから僕が見ていたあのワゴンは、

友人と同じように助手席を倒して、

長いボードをそこに縦に入れ、

ボード同士がかさならないように、

レイルを上下にしてサーフボードを積んでいた。

運転席側にはフィッシュやバーソープが見える。

かならずしも使い勝手が良いとは言えないステーション・ワゴンで、

ボードを多く入れる最大限の使い方だった。

友人はプロ・サーファーだった。

そのくせ、競争や独り占めは苦手で、沖でいつも波を分けてくれた。

僕たちには、「Go」といって、先に乗せてくれる。

そのくせ、いつのまにかその日の1番良い波、

ウェーブ・オブ・ザ・デーを乗っていくのだった。

海が右に見えてくると、もうそこはカパアの街だ。

こうして夕暮れの中で坂を下っていくのは、

ライトの浮かぶ陸地に降りる飛行艇のような気持ちになる。

カパアのピッツア・スタンドは、

ジミーがやっているので、いつも大賑わいだ。

ジミーは、性格も良く、

グレイトという冠をいくつも所有しているかのようなサーファーなので、

島中のサーファーたちに顔を知られている。

ピッツアを買いにカパアまで来るのは、

このピッツアがすばらしいことと、

そしてジミーの笑顔との相乗効果だと思っている。

彼はたいていは、その大きなピッツア釜の周りにいるのだけど、

僕が顔を出すと、本当にうれしそうな顔をしてくれる。

次女が、今年のクリスマスには帰って来るんだ、

そう言ってジミーはうれしそうだった。

いま僕がひとりで走らせているのは、

すっかり色が落ちてしまったが、もとは黒色のサバットだ。

サバットというのは、

僕たちが付けたニックネームで、カタログには、ホンダ・フィットと掲載されている車。

四国ではシェヴィ・ヴァンに乗り、

ハワイで日本車に乗るのは、ちょっと考えると不思議だけど、まあ当然のことでもある。

そのくらいに、ハワイには日本車があふれている。

特にホンダは、

再販価格が高いので、

トヨタ並によく見かけ、

すっかりとカウアイの街になじんでいる。

今日のカウアイ島北海岸は、

スコールのような雨が降ったと思ったら、

やんで、

また降ってきた。

雨の日には、匂いは湿気によって外へと導き出される。

その匂いのひとつに、いまはピッツアの匂いが、重なっている。

エクストラ・ラージサイズに、ハーフベジタリアン、

そして半分をパイナップルとベーコンにして、

大きくて平らな段ボール箱に入っている。

小さい箱はジミーからのサーヴィス品の、

多分、フレッシュカットのフレンチフライだ。

そのふたつを重ね、

冷めないようにと、

上にビーチ・タオルと、

スエットシャツを載せて、隣の席に置いてある。

僕はサバットの所有者である友人の北海岸の家に向かっている。

英語で言えば、ノース・ショア・ハウス。

簡潔である。

彼は当分のあいだそこに住むのだと言っている。

買って来たピッツアとビールとで、

これから夏の、ノースショアの夕食だ。

去年まで駐車場として使用されていた、

ほったらかしのただの空き地は、再開発されて新たな住宅地になった。

冬のあいだ、沖のサーファーたちを見物する人の自動車で、

いつもいっぱいだった駐車場には、いまは住宅がならんでいる。

その住宅地の北側に、友人の家があった。

簡素な木造の2階建ての、古い民家だ。

僕たちはここをウナクネ会館と名付けたが、

僕がウナクネではなく、ドラグラだと言い出した関係で、

ドラグラ会館というものになるつつある。

まあ、どちらでも良い。

[1−6に続く]