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シングルフィン / 夢 龍_(1873文字)【ドラグラ・プロダクションズ製作】

シングルフィン

夢 龍

シングルフィンというサーフボードがある。

文字通り、

一枚の舵(かじ)だけが付いたサーフボードだ。

これで波を滑ると、

単一な軌跡、

つまりクラシックな乗り味となるという。

クラシックとは伝統的だったり、

古典という意味だが、

『原典』と訳してもいいかもしれない。

シングルフィンとは、

一枚のフィンが付いたサーフボードと書いてあった。

ならば、

ハードオフで見かけたあれでいいのだろうか。

または機能的であり、

完璧なる工業製品の方が精確に波に乗れそうなので、

そちらも悪くない。

調べてみると、どうも違う。

私が読んだ文体のシングルフィンではない、

ざらざらしていて、

飴色ぽい甘さをしたたらせる画となるものだ。

そう考えると、

「そういうもの」が欲しくなった。

「それで波に乗れば真なり」

そんなオーセンティックな軌跡を自分のものとしたくなった。

私のレベルでは、

きっと必要のないことだともわかるのだが、

念のためK氏に聞いてみると、

(K氏は、私にとって最上のサーフグルです)

「僕は手製のタイラー・ウォーレンが浮かびます」

そんなことを言うではないか。

タイラー・ウォーレンのことを調べてみると、

なるほど、

彼こそは、

「全てのレンジのサーフボード」を操り、

そしてシェイプするという、

若きして偉大な存在だった。

で、

私はその古典なるシングルフィンを彼に作ってもらいたくなった。

これは宣伝ではないが、

千葉一ノ宮のNAKISURFまで行き、

タイラー・ウォーレンのトラッカーをオーダーした。

機能、値段、総合力では、

他のもあったのだろうけど、

「魔性の剣のようでいて、人なつっこい子犬みたいな乗り味」

K氏が熱心に伝えるところの、

味だったり、

魔の斬れのかけらを味わえたらと思ったのである。

しかもこれに乗るためには、

「体力を鍛えてから」

であるという敬意を込めて時間のかかるカスタムオーダーとした。

帰りの車の中では、

この、トラッカー6’7″のことをずっと考えていた。

「波に乗る意味」

そこまで意識を掘り下げることもできた。

家に戻り、FBを開き、

「TWオーダーしました」

暗号じみたことをポストすると、

メッセンジャー経由で

「手製タイラーには、足から脳に伝わる超刺激があります」

Cくんがこう書いてきた。

彼もまた波乗り世界を愛し、

俯瞰できるサーファーである。

私などは、

まだまだそんな域ではないので、

ただただ感心していながら、

「その日のこと」を浮かれるがまま、

サーフボード世界のやり取りを楽しんでいる。

シングルフィンとか、

タイラー・ウォーレンというのは、

ここまで人を熱狂させるものらしい。

「ターンのときに感じる波への切れ込みが官能的なんです」

Cくんのこの言葉が忘れられない。

調べていくと、

手製のサーフボードは、

ハンドシェイプという完成までのプロセスが永く、

シェイパーの感覚で仕上げられるとあった。

機械的に仕上げないので、

そのおかげで風雅さがあり、

工業製品に劣るこの手製ボードに乗るということは、

「波に乗ることは勝負ではなく、心を輝かす行為です」

という隠れたメッセージによるアピールが他のサーファーたちにできる。

シングルフィンは、

他のサーファーが多く抱いている

「誰よりも激しくボードを蹴り出したい」、

「トップのカタパルトで、全速で斬りだし、360エアをランドしたい」、

そんな煩悩をなだめてくれるものだとも知った。

シングルフィンは、

質素で魂を静める侘寂(わびさび)に通じ、

それはまるで刀のようにも思えてきた。

このシングルフィンは、

数々のシェイパーたちが、

目指す基本形かつ究極であるらしく、

このシングルフィンの所蔵を眺めていると、

それはまるで玉刀であり、

名刀でもいて、

霊剣にも感じられる。

普通のシングルフィンは太刀、脇差、

けれど、ひとたびシェイパーの気持ちが入り、

歴史的要素を帯びると正刀となり、

はたまた妖刀というものまである。

シングルフィンの銘作は、

私にとっては重要文化財と同意の重量を帯びてくるのであった。

スサノオが出雲国でヤマタノオロチを退治し、

その体内(尾)から見つかった神剣が、

天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)。

そこまでの極刀並のシングルフィンが、

私のものになるかもしれない。

大げさになってきたが、気分は悪くはない。

だって、

そんな神話世界を感じることは普段ないからだ。

トラッカーが完成したら、

羽で羽ばたくように波に乗ってみせる。

硬く強い波に乗り、速く、どこまでも滑り降りたい。

その日のために、私は腕立て伏せと腹筋をする。

酒、やめようかな。