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3.8フィートの週末1-4 波の宇宙/ 片岡鯖男〈ドラグラプロダクションズ製作〉_(2034文字)

3.8フィートの週末

片岡鯖男

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1-4

波の宇宙

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いまから四十億年前に原始海洋が誕生した。

これは大気に含まれていた水蒸気が、

火山からの噴出によって凝結して、

雨として降り注いで形成されたものであった。

とすると、

この年代はものすごい雨が降り続けたことだろう。

その海洋は、大量の二酸化炭素を吸収していった。

水蒸気が紫外線で光分解し、酸素が生成された。

そして三十八億年もまえに、

陸地が海洋からできて、

ほぼ同時に原始細菌があらわれた。

地球と太陽の絶妙なる距離の証拠は、

海がいまでも海として残っていることに他ならない。

少しでも離れていれば、氷の海となり、

近ければ蒸発していたことだろう。

そして生物の誕生。

ということで、

38億年前ということが重要だと、

僕は『鯖男(38=さば・おとこ)』

というペンネームにした。

高知県に浦ノ内という、

エーゲ海のような内海があり、

そんなところに住んでいるが、

ここは平安時代のようにいまだに妖しが出たり、

鬼が出たりする場所のようで、

途端に気や精霊ということに興味を持ち始めた。

片岡というのは、

宇佐竜の井尻に伝説があり、その主人公の一人から名付けた。

種間寺のそばに住む真くんなどは、

私のことをカタサバと呼んでいるが、

音感が良く、悪くはない。

対岸の奥に住むタローマンは、

軽自動車の販売業をしている。

数日前、

彼が赤いスバルの軽で走っているのを見かけたが、

昨日今日と姿が見えない。

運輸支局でも行ったのだろうか。

『Shikoku Japan 88 Route Guide』

というタイトルの、小さな本を手に入れた。

これは外国の人たちのために、

お遍路について英語で、

そして利用のしかたについても解説を試みた本である。

外国人巡礼者たちはこの小さな本を仲介にして、

巡礼していくことをとおして、

日本に、そして仏教に深く接していく。

巡礼だが、

わが高知県にも数々の銘寺がある。

ちょうどこの上を走る横浪スカイラインは、

青龍寺から岩本寺に向かうルートでもあるので、

よく遍路修行者をみかける。

この英語本をみると、

青龍寺が36ドッコザン・ショウリュウジで、

聖地にある金剛福寺は、

38サダザン・コンゴウフクジとなっている。

数字以外はすべてローマ字だ。

外国から来た人たちは、

このローマ字に接するより他はなすすべがない。

子音と母音の交互的なくりかえしによる長い言葉は、

口に出して言える音ですらない。

寺名が、

その音節のとおりに、

ローマ字に置き換えられているだけにすぎない。

このような、

意味もなにもまったく感じられないローマ字の羅列は、

僕にとって他人事ではない。

宇佐がローマ字でUSAと書いてあるのを、

子供の頃はユーエスエーとしか読むことが出来なかった。

修行者を英語でピルグリムという。

遍路も巡礼者もピルグリムであり、

遍路よりももっとおおきな表現であるし、

私のあこがれでもある。

ピルグリムというサーフ系のセレクトがあって、

これはニューヨークにもあるし渋谷区にもある。

良い名前だ。

ピルグリムのサーフ担当である五十嵐 遼一さんには、

お世話になったことがある。

また一緒にサーフしましょう。

僕はこのまえにたたずむ内海に目をむける。

右手には青龍寺の独狐山があり、その上にはよく龍が浮かんでいる。

これは先ほどのドッコザンであり、

英訳によってはトッコザンともなる。

1200年というのは、

単語の発音をそのくらい色あせさせるものなのだろう。

1200年前に青龍寺が建立されるまえから同じだったのだろうけど、

宇佐の空の下に横たわって、

龍はゆっくりとくねるように浮き続ける。

真くんから波情報を伝える電話があった。

いつもの時間なので、時報にも感じられる。

波は、なかなかのものらしい。

彼はたいてい朝サーフして、

それから仕事に行くので、生の情報を与えてくれる。

橋の上から見た遠き情報とは違う、

実際に波に乗ってきた感想でもあり、

希望でもあり、夢でもあった。

この時間から海は混雑とは無縁となる。

それは海風、

オン・ショア風を嫌がるサーファーが多いことを意味していて、

僕はどの向きの風でも格段に強くなければ楽しくサーフしている。

僕はショアブレイクから飛び込み、

海に自分を沈めていく。

宇宙の時間のなかへ、

僕はかえっていく。

地球という容れものの中で、

ひとつにつながっている生命体の海。

宇宙の誕生からずっと続いている時空間という海。

宇宙から続く時間と、

地球のなかへ超微小なる距離だけど入りこむ。

それ以上は必要ない。

僕はサーフボードに立ち上がりつつ、

その波のピークへ持ち上げられる。

The Waveとして立ち上がりきった、

水の運動エネルギーの頂上で、

サーフボードの上で、

波斜面に摩擦係数をレイルに与えながら、

セクションの底、自由に向けて、滑り降りた。

波というのは、

海の水の運動エネルギーであり、

それに乗った僕は、その瞬間、宇宙の時空間そのものとなった。

Happy Dragon Glide!