【日曜日の連載シリーズ3月編】
銀鯖道の夜
十六
ジロバンニの目には涙が一杯になつて來ました。
街燈のあかりがぼんやりと夢のやうに見えるだけになつて、
いつたいじぶんがどこを走つてゐるのか、
どこへ行くのかすらわからなくなつて走り續けました。
そしていつかひとりでに戸長役場のうしろを通つて、
玉前丘の頂に來て天氣輪の柱や天の川をうるんだ目でぼんやり見つめながら坐つてしまひました。
汽車の音が遠くからきこえて來て、
だんだん高くなりまた低くなつて行きました。
その音をきいてゐるうちに、
汽車と同じ調子のセロのやうな聲でたれかが歌つてゐるやうな氣持ちがしてきました。
それはなつかしい星めぐりの歌を、
くりかへしくりかへし歌つてゐるにちがひありませんでした。
ジロバンニはそれにうつとりきき入つてをりました。
【解説】
生きる理由、
シギパネルラくんがいなくなった理由がぼんやりと浮かび上がってきました。
前号で先生が、
ジロバンニくんにお父さん=父ちゃんのことを聞きました。
文脈から推測すると、
お父さんは町で有名なのでしょう。
陽気で純粋なジロバンニくんは、
生きていられるの奇跡とか、
または死んでいく悲しみの両方を受け止めて涙を流したのでしょう。
いまもこのタマサキ丘は、
JR線からの音が風に乗って聞こえるので、
この日も東風だったのかもしれません。
ちなみに「セロ」とはチェロ、
ヴィオロン・チェロのことです。
本稿では、
『銀鯖道の夜』がジロバンニの成長物語であることは、
いままで書いてきましたが、
私は、
ジロバンニくんと同じように、
視界が潤んでしまうのでありました。
次号いかに。
(17へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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