昨日ここに書いたように、
「やけにパワフルな月」を撮ってきました。
ここはサンオノフレの崖。
月が光彩円を従えていて、
さらにはいくつかの星も見え、
目を凝らしていくと、それはまるで宇宙そのもの。
月光浴をしながら、ある物語の構想を練っていました。
さて、西うねり。
そして嵐がやってくるという。
いつものようにブライアン・ミラーとミドルスに行き、
海のフレッシュで激烈なるパワーをもらった。
やはりサーフィングはいい。
なぜならば、予想だにしないエネルギーを波から受けるから。
今日がそんな日。
そんな重要日に会ったのが、
サーファーズジャーナル誌の跡継ぎとされるショーン・ペズマン。
彼とシングルフィン話をしていると、
ひとりのサーファーの波乗りが目に焼き付いた。
正確で、軸を持った美しいターン。
「うわ!トムカレンのハイブリッドだね」
「はて、いったい誰なのだろうか?」
などと三人で話していたらそのサーファーはデイブ・ポストだった。
デイブはニューポート出身で、
その昔はエアショー(エアリアルのみを採点するコンテスト)や
WQSに出場していた時に知り合った。
それから10年後の今、
デイブは基本に沿ったクラシカルなサーフィングをするようになった。
進化というより、
サーフィングのルーツに向かうスタイルの気配を満たし、
「ターン全てに品があり、
渋く熟成させたサーファーになったんだねデイブは」
そんなことを言うと、ものすごく照れていた。
きっと図星だったのだろうか。
ミドルスの長い斜面に描いたデイブの重く速いターン。
いつまでも忘れられないほどすばらしかった。
さて、この満月の下を悠々歩いている人がいて、
それは精神科医のリノだった。
彼とよもやま話をしていると、
先日私が観たオペラの話となった。
「セリアか、それともブッファだったか?」
そんなことを聞いてきた。
あまりわからないので題名を見せると、
「ははぁ、これはフランス語だ」
「まあそんなような言語でした」
「ビゼーの代表作じゃよ。字幕でFriend, friend, friendとやっていて訳に違和感あるだろ」
「え、なんでもそんなことを知っているのですか?」
「オペラは同じ作品を何度でも見るものだ。こういう代表的な作品のフレーズはほとんど頭に入っている」
(と言って歌い出した。しかも美声バリトン)
「そうなのですね」
「娯楽でも一般向きとそうでないのがある。
オペラはまさに上級娯楽といえよう。だから年配のファンが多いのさ。ようこそオペラの世界に」
そう言って手を拡げてきて、
また知った曲を歌い上げる。
で、月がそのメロディを吸い取るように空に舞っていった。
こんな話をしてから去っていくリノ。
こんな人だとは知らなかったけど、
とてもすてきなことを感じた夜でした。
突然、
芥川龍之介さんの「蜘蛛の糸」の最後のフレーズ、
「極楽ももう午(ひる。正午頃)に近くなったのでございましょう。」
というあれが浮かんだ。
そこで、その文体に重ねて、今日の満月日を芥川式に終えるとします。
しかしこの満月は、少しもそんな事には頓着(とんじゃく)致しません。
その玉のような白い光は、
御釈迦様の御足(おみあし)のまわりに、
ゆらゆら萼(うてな)を動かして、そのまん中にある銀蕊(ずい)からは、
何とも云(い)えない力が、
絶間(たえま)なくあたりへ溢(あふ)れて居(お)ります。
参斧振(サンオノフレ)ももう亥(いの刻。22時頃)に近くなったのでございましょう。
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