【日曜日の連載シリーズ5月編】
銀鯖道の夜
二十一
「この地圖はどこで買つたの。
寶石でできてるねえ。」
ジロバンニが云ひました。
「銀鯖ステーシヨンで、
もらつたんだ。
君もらはなかつたの。」
「ああ、
ぼく銀鯖ステーシヨンを通つたらうか。
いまぼくたちの居るとこ、
ここだらう。」
ジロバンニは、
“太東の檀那”と書いてある停車場のしるしの、
すぐ北を指しました。
「さうだ。おや、あの濵は月夜だらうか。」
二十二
そつちを見ますと、
青白く光る銀鯖道の横に、
銀いろの石が、
もうまるでいちめんにあり、
さらさらさらさら、
ゆられてうごいて、
浪を立てているのでした。
「月夜でないよ。
銀鯖だから光るんだよ。」
ジロバンニは云ひながら、
まるではね上りたいくらゐ愉快になつて、
足をこつこつ鳴らし、
窓から顏を出して、
高く高く星めぐりの口笛を吹きながら、
一生けん命延びあがつて、
太東の檀那といふ巨魚が跳ね上がるのを見きはめようとしましたが、
はじめはどうしてもそれがはつきりしませんでした。
【解説】
地圖=地図
寶石=宝石
濵=砂浜
ふたつの章をまたいで舞台が移動していきます。
しかも第四次幻想世界のなかにいる二人は、
バンタイプの車に乗って、
ギンサバミチを南西に向かっています。
ギンサバミチというのは、
銀色に光る海沿いにある道で、
いまもなおタマサキ浜から太東岬までの各所に残っています。
檀那(ダンナ)というのは、
太東岬伝説にある巨大怪魚のことです。
言い伝えによると、
舟よりも大きな巨大魚が太東岬にいて、
ときおり漁師が襲われたそうです。
銀鯖ステーションというのは、
いわゆる「三途の川」ではないかと、
研究者たちのあいだで考察がなされています。
著者であるミヤサバ先生が仏教寄りだったともわかりました。
(23へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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