銀鯖道の夜
二十九
南十字路とタキビシン海岸2
俄かに、
車のなかが、
ぱつと白く明るくなりました。
そとを見ると、
金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたやうな、
きらびやかな銀河の下を、
太東岬の浪は聲もなくかたちもなく流れ、
その流れのまん中に、
ぼうつと青白い光が見えるのでした。
ジロバンニとシギパネルラが乘つてゐるキヤラバンは
ちやうどその南の方の町はづれへ走つて行つたのです。
そこには、
ぼうつと白く見える小さな店があつて、
信號標がかかつてゐました。
その店のなかに、
立派な眼もさめるやうな、
細い鐵の框のなかに太東岬の檀那の移しがあつて、
それはもう、
太陽の面で鑄たといつたらいいか、
すきつとした金いろの圓光をいただいて、
しづかに永久に横倒れてゐるのでした。
【解説】
俄かに=にわかに、突然
聲=声、この場合は音
魚の移し=魚拓のこと
小さな店=現在の堀込釣具店
信號標=信号
鐵の框=鉄の枠
鑄た=鋳る
圓光=円光、丸い光
横倒れてゐる=横倒れている
物語の発展は、
「太東岬の檀那」という怪魚によって存在が具現化した。
こうしたものがからまりあうように「ギンサバミチ」を想像させ、
これらのギンサバ世界の景色を形成している。
ミヤサバは、
怪魚を飛躍させる一方で、
さまざまな事項が溶けあう
プラクシス(ギリシャ語:実践、practice)を表現していると思える。
ジロバンニとシギパネルラを乗せたキャラバンは、
シギパネルラがいなくなったタマサキから南下し、
太東岬の、
信号がある交差点までやってきたのだ。
ここが、
副題にもある「南十字路」だろうと、
私たち研究者たちは見立てている。
(30へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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