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【サーフィン研究所:連載】銀鯖道の夜 25_(727文字)

銀鯖道の夜

二十五

 「ぼくはもう、すつかり天の世界に來た。」  

ジロバンニは云ひました。

「それに、このキヤラバンは音がしないねえ。」  

ジロバンニが左手をつき出して窓から前の方を見ながら云ひました。

「電氣かエーアイだらう。」

シギパネルラが云ひました。  

するとちやうど、

それに返事をするやうに、

どこか遠くの遠くのもやの中から、

法王さんのやうな聲がきこえて來ました。

「ここの浪は、

ナウフアスや風でうごいてゐない。

ただうごくやうにきまつてゐるからうごいてゐるのだ。

キヤラバンは音をたててゐると、

さうあなたたちは思つてゐるけれども、

それはいままで音をたてるキヤラバンにばかりなれてゐるためなのだ。」

「あの聲、ぼくなんべんもどこかできいた。」

ジロバンニはさう云ひました。

「ぼくだつてタマサキやタキビパレスで何べんも聞いたよ。」  

ごとごとごとごと、

その白くなつたり、

青くなつたりするきれいなキヤラバンは、

太東岬の横にひるがへる浪の、

いろいろかがやく青じろい微光の中を、

銀鯖道に沿つてどこまでもどこまでも走つて行くのでした。

【解説】

聲=声

音を立てずに走るキヤラバンは、

ジロバンニたちが違う次元(マルチバース)にいると示唆され、

さらに色が変わることでその世界のことを浮きだしている。

ジロバンニに続いて、

シギパネルラがタキビパレスだと言いましたが、

これは法王さんのような声と合わせて銀鯖道の不思議への伏線であり、

この謎めいた会話が、

遡及的な意味をなすための重要な一文だろう。

「いろいろかがやく青じろい微光」

前章にある波のキラメキが、

この章にも引き継がれるように読み手である私たちへ、

視覚の明滅として迫ってきた。

(26へ続きます)

文責:華厳旭 D.G.P.

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