銀鯖道の夜
三十三
南十字路とタキビシン海岸6
二人は胸いつぱいのかなしみに似た新らしい氣持ちを、
何氣なくちがつた言葉で、
そつと話し合つたのです。
「もうぢき海岸の停車場だねえ。」
「ああ、十一時三八分には着くんだよ。」
白い物置と、
その上に拵えた橙いろの煉瓦の小さな家が、
ちらつと窓のそとを過ぎ、
それから叢祠の角を右に曲つて、
キヤラバンはだんだんゆるやかになつて、
間もなく湖のやうに見える海が右にあらはれ、
それがだんだん大きくなつてひろがつて、
二人は丁度タキビシン海岸停車場の前に來てとまりました。
【解説】
新らしい氣持ち=新しい気持ち
拵えた橙いろ=こしらえたオレンジ色
叢祠(ほくら)=ほこら、神をまつる小さな社
私はしばらく想像界と、
象徴界という関係性について考えていた。
この現実のようでもあり、
幻想でもない世界は、
マルチバース(多元宇宙、multiverse)を表現していると言える。
タキビシンとは、
「ギンサバ年代の一つ、第三期の鮮新世」のことである。
(34へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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