銀鯖道の夜
三十一
南十字路とタキビシン海岸4
檀那の移したちは、
だんだんうしろの方へうつつて行きました。
向う岸も、
青じろくぽうつと光つてけむり、
時々、
草花が風にひるがへるらしく、
さつとそれぞれのいろがけむつて、
浮かんでゐるところに來てゐました。
また、
億萬のハマヒルガオの花が、
ほんたうにそこらタマサキの都のやうに見えるのでした。
【解説】
檀那の移し=太東岬の巨大魚の魚拓
うつつて=移って
ぽうつと光つて=ぽっと光って
ひるがへる=ひるがえる
浮かんでゐるところに來てゐました=浮かんでいるところに来ていました
ほんたうにそこらタマサキの都のやうに=本当にそこは玉前の都のように
ふたり=ジロバンニとシギパネルラを乗せたキャラバンは、
太東岬を越え、
南十字路(現在の堀込釣具店あたり)を折れ、
タキビシン海岸に向けて走っている。
「億万ものハマアサガオが咲いて」
という表現は初夏を意味しているのだとわかる。
車窓からの描写は、
ジロバンニたちが、
檀那という怪魚の亡霊から放たれ、
さらにはタマサキの中心からも離れるという示唆を、
愛おしく、
芸術的に保存しようとしているように見受けられた。
(32へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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