銀鯖道の夜
三十
南十字路とタキビシン海岸3
「タキビシン、タキビシン。」
うしろから聲が起りました。
ふりかへつて見ると、
小さな店に飾つてありました移しは、
大きな紙きれからそろそろと出て來て、
薫りだしたといふやうに店の中を流れましたし、
街燈はみなまつ青なもみや楢の枝で包まれ、
ケントのお家の前の六本のプラタナスの木などは、
中に澤山の豆電燈がついて、
ほんたうにそこらはタマサキの都のやうに見えるのでした。
カリンらは、
みんな新らしい折のついた着物を着て、
星めぐりの口笛を吹いたり、
「オクトパス、花を咲かせろ。」
と叫んで走つたり、
青いマグネシヤの花火を燃したりして、
たのしさうに遊んでゐるのでした。
さつきの大きな檀那が叫びました。
「ジロバンニ、ラツコの法王が來るよ。」
すぐ他の移しが、
續いて叫びました。
「ジロバンニ、ラツコの法王が來るよ。」
ジロバンニの頬は、
まるで熟した苹果のやうにうつくしくかがやいて見えました。
【解説】
聲が起りました=音がしました
ふりかへつて=ふりかえって
小さな店=現在の堀込釣具店。
この章のサブタイトルにもある南十字路にある
移し=魚拓のこと
いふやうに=いうように
まつ青な=真っ青な
ケントとカリン=ジロバンニの友だち
オクトパス=太東岬付近にある商業施設
花=妙高(新潟県)の銘焼鳥屋だという新説が有力
青いマグネシヤの花火=研究によると、
これはスマートフォンの明かりだとされているが、
明治時代に携帯できる電子機器は存在していないので、
これはミヤサバ・ファンタジーによる、
マルチ・バース世界のことだと推される。
ゐる=いる
大きな檀那=太東での章に出現する巨大怪魚。
基本史料と照合すると、
少なくとも400kgもあった巨大魚だとされている。
また、この怪魚は宇宙人の別姿だとも。
ラツコの法王=ラカ法王33世のこと(上画像は38世)
續いて=続いて
苹果=リンゴ
やうに=ように
(31へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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