銀鯖道の夜 三十四
南十字路とタキビシン海岸7
二人は一度にはねあがつてドアを飛び出しました。
タキビシン海岸と書かれた停車場の向うには、
まつすぐに銀河の光が海の上へ通つてゐました。
まつくらな海の上に龍が星あかりに照らしだされてあつたのです。
ジロバンニは、
さつき太東岬で見た浪のやうだとも思ひました。
マーチャンがいました。
「ジロちゃんどうしたの?」
マーチャンはジロバンニだけにそう聞きました。
ジロバンニは云ひました。
マーチャンは何を釣っているのですか?
ああ檀那を釣っているのだけど、
ほんたうの檀那はいないねえ。
びくのなかを見ますと、
たくさんの魚がいましたがそれは巨きな川鱸でした。
【解説】
海の上へ通つてゐました=海の上に浮かんでいました
照らしだされてあつたのです=照らしだされていました
浪のやうだとも思ひました=波のようだとも思いました
巨きな川鱸=大きなカワスズキ(ブラックバス)
このエピソードの題名にある「南十字路」は、
現在も太東海岸から上がってきたところに存在している。
だが十字路ではなく、
ナナメに交差する道が玉﨑神社(中原)に向けてつけられている。
文中にあるように、
ジロバンニは海(堰)の上に龍が浮かんでいるのを目撃した。
これにはどんな意味があるのだろうかと、
地図と星図を重ね、
南十字路とタキビ神海岸の停車場を結んでみると、
玉﨑神社を通って天極[*]に到達した。
これらのことを総合すると、
この物語にある南十字路は、
クラックス(Crux、核心)だと予想できる。
[*] 天極。タキビパレスのことだと推察されている。
(35へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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