銀鯖道の夜
四拾壱
南十字路とタキビシン海岸14
二人は、
その白い岩の上を、
一生けん命走りました。
そしてほんたうに、
風のやうに走れたのです。
息も切れず膝もあつくなりませんでした。
こんなにしてかけられるのなら、
もう世界中だつてかけられると、
ジロバンニは思ひました。
すると、
黄金色のミソが横を走つてゐました。
そしてあの河原を通り、
間もなく二人は、
もとのキヤラバンの席に座つていま行つて來た方を窓から見てゐました。
【解説】
ほんたう=本当
思ひ=思い
ミソ=ジロバンニの飼っているネコ
座つていま行つて來た=座っていま行って来た
タキビシン海岸での釣りは、
作者の知識が元になっていると考えられる。
タキビシンとは、
ドラグラ年代の一つで、
「第三期の鮮新世」のことだ。
ジロバンニは、
太東岬の内陸の堰(せき)を「タキビシン海岸」と呼ぶのは、
幼児体験というか、
子どもの目には、
堰が海のように大きく見えていたのではないだろうか。
ここで見た「釣り人たち」は、
檀那という怪魚を狙うアングラーたちのことであろう。
銀鯖上でタキビシン海岸は、
海と描かれていることがファンタジーを確信させる。
(42へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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