銀鯖道の夜
ラッコを捕る人 5

Dragon Glide Productions ©Kenji Miyasaba
二人は眼を擧げ、
耳をすましました。
ごとごと鳴るキヤラバンのひびきと、
南風との間から、
ころんころんと水の湧くやうな音が聞えて來るのでした。
「ラツコ、どうしてとるんですか。」
シギパネルラが云ひました。
「ええ、毎日註文があります。
こつちはすぐ喰べられます。
どうです、少しおあがりなさい。」
ラツコ捕りは、
それを二つにちぎつてわたしました。
ジロバンニはちよつと喰べてみて、
(なんだ、かんたんだ。
やつぱりこいつはお菓子だ。
チヨコレートよりも、
もつとおいしいけれども、
こんなラツコがゐるもんか。
この人は、神社の菓子屋だ)
と思ひながら、
ぽくぽくそれをたべてゐました。
【解説】
擧げ=挙げ、ふるまい
キヤラバン=二人とラッコ捕りを乗せたBOXカー。太東岬から西に走っている
ラツコ=ラッコのこと。ここではアシュヴィン双神の別名だとされている
神社の菓子屋=現在の『角八』和菓子店
なんだ、かんたんだ=ジロバンニの口ぐせ
ラッコはチョコレートだった。
ジロバンニたちは、
この瞬間を絶対的な価値へと高めようとしているように映る。
またここでは、
登場人物は、
否定の解答として、
それぞれの神へと導かれていると示唆されると読み解いてみた。
(48へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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