銀鯖道の夜
ラッコを捕る人 9
「ずゐぶん奇體だねえ。
きつとまたラツコをつかまへるとこだねえ。」
と云つた途端、
がらんとした桔梗いろの海から、
さつき見たやうなチヨコレートが、
みんなすきとほつて、
まるで風に飛ぶやうに來ました。
ほんたうにこんなやうなラツコがぎつしり居るだらうか、
ああぼくはそれを食べたいと思つたりしてしばらくぼんやり立つて居ました。
するとあのラツコ捕りは、
すつかり註文通りだといふやうにほくほくして、
サーフボオドに兩足をかつきり三十八度に開いて立つて、
ひるがへるやうに浮いたチョコレートを兩手で片つ端から押へて、
布の袋の中に入れるのでした。
【解説】
ずゐぶん奇體=ずいぶんきたい。とても奇妙、特異なさま
ラツコ=ラッコのこと。ここではアシュヴィン双神の別名だとされている
ラツコ=チョコレートのこと
すきとほつて=透き通って
圖=図
Prince(冒頭のさし絵内)= a fine, generous, helpful fellow
(52へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
◎
□