銀鯖道の夜
ラッコを捕る人 11
ラツコ捕りは二十疋ばかり、
袋に入れてしまふと、
急に兩手をさげて、
模型の人形のやうな形をしました。
と思つたら、
もうそこにラツコ捕りの形はなくなつて、
却つて、
「ああせいせいした。
どうもからだに丁度合ふほど稼いでゐるくらゐ、
いいことはありませんな。」
といふききおぼえのある聲が、
ジロバンニの隣りにしました。
見るとラツコ捕りは、
もうそこでとつて來たラツコを、
きちんとそろへて、
一つづつ重ね直してゐるのでした。
「どうしてあすこから、
いつぺんにここへ來たんですか。」
ジロバンニがなんだかあたりまへのやうな、
あたりまへでないやうな、
をかしな氣がして問ひました。
「どうしてつて、來ようとしたから來たんです。
ぜんたいあなた方は、どちらからおいでですか。」
ジロバンニは、
すぐ返事しようと思ひましたけれども、
さあ、
ぜんたいどこから來たのか、
もうどうしても考へつきませんでした。
シギパネルラも顏をまつ赤にして何か思ひ出さうとしてゐるのでした。
【古語解説】
ラツコ=ここではチョコレート
ラツコ=内面;アシュヴィン双神の別名だとされている
二十疋=20匹
却つて=かえって、予想とは反対になるさま
丁度合ふほど稼いでゐるくらゐ=ちょうど合うほど稼いでいるくらい
といふききおぼえのある聲=という、聞き覚えのある声
をかしな氣がして問ひました=おかしな気がして聞きました
ぜんたい=いったい(されば)
先日、
タキビ神くんと卓を囲んだとき、
このラッコ捕りのトリックスター話となった。
ギリシア神話にもトリックスターがいる。
最高神ゼウスの子であり、
オリュンポス十二神の、
商業や学問を司る神の「ヘルメス」
空を飛び、
神の伝令役をつとめたとされる。
このヘルメス、
エルメスがラッコ捕りと重なって見えるのだ。
(54へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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