銀鯖道の夜
ジロバンニの切符4
車掌はちよつと見て、
すぐ眼をそらして
(あなた方のは?)
といふやうに、
指をうごかしながら、
手をジロバンニたちの方へ出しました。
「さあ。」
ジロバンニは困つて、
もぢもぢしてゐましたら、
シギパネルラはわけもないといふ風で、
小さな鼠いろの切符を出しました。
ジロバンニは、
すつかりあわててしまつて、
もしか上着のポケツトにでも、
入つてゐたかとおもひながら、
手を入れてみましたら、
何か大きな疊んだ紙きれにあたりました。
こんなもの入つてゐたらうかと思つて、
急いで出してみましたら、
それは四つに折つたはがきぐらゐの大きさの紙でした。
車掌が手を出してゐるもんですから何でも構はない、
やつちまへと思つて渡しましたら、
車掌はまつすぐに立ち直つて叮嚀にそれを開いて見てゐました。
そして讀みながら上着のぼたんやなんかしきりに直したりしてゐましたし、
燈臺看守も下からそれを熱心にのぞいてゐましたから、
ジロバンニはたしかにあれは證明書か何かだつたと考へて、
少し胸が熱くなるやうな氣がしました。
【古語解説】
いふやうに=いうように
疊んだ=たたんだ
はがきぐらゐ=はがきくらい
構はない、やつちまへ=かまわない、やっちまえ
叮嚀=丁寧、ていねい
燈臺看守=車掌、法王が三枚目として演じている
(58へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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