銀鯖道の夜
ジロバンニの切符5
「これは三次空間の方からお持ちになつたのですか。」
車掌がたづねました。
「何だかわかりません。」
もう大丈夫だと安心しながらジロバンニは、
そつちを見あげてくつくつ笑ひました。
「よろしうございます。
南玉崎へ着きますのは、
次の第三時ころになります。」
車掌は紙をジロバンニに渡して向うへ行きました。
シギパネルラは、
その紙切れが何だつたか待ち兼ねたといふやうに急いでのぞきこみました。
ジロバンニも全く早く見たかつたのです。
ところがそれは太陽のやうな模樣の中に、
崎と印刷したもので、
だまつて見てゐると、
何だかその中へ吸ひ込まれてしまふやうな氣がするのでした。
【古語と解説】
三次空間=現実世界のこと
そつち=研究者たちはいまだにこれがどちらを向いたのか断定できていない
といふやうに=というように
あわてたやうに云ひました=あわてたように言いました
この券の表現の対置は、
当初の要素を乗り越え、
より優れた効果を物語のデプス(奥行き)に与えたことだろう。
ミヤサバ博物館では、
この券がいくつか展示されていて、
その独自のマトリックス・ナンバーを見ていくと、
今回掲載した画像のものが、
末尾1A/1Bとなっていた。
横にあったものが、
1B/1Cと一つずれていたが、
これらをどこで誰が手に入れたのかは謎である。
(59へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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