銀鯖道の夜
ジロバンニの切符8
ほんたうにあなたのほしいものは一體なんですか、
と訊かうとして、
それではあんまり出し拔けだから、
どうせうかと考へて振り返つてみましたら、
そこにはもうあのラツコ捕りが居ませんでした。
網棚の上には白い荷物も見えなかつたのです。
また窓の外で足をふんばつてそらを見上げてラツコを捕る支度をしてゐるのかと思つて、
急いでそつちを見ましたが、
外はいちめんの苹果畠とハマエンドウの波ばかり、
あのラツコ捕りの廣いせなかも尖つた帽子も見えませんでした。
【古語解説】
ほんたうに=ほんとうに。本当に
一體=体の旧字体、一体、いったい
訊かう=聞こう
出し拔け=出し抜け、突然
どうせうか=どうでしょうか
考へて=考えて
ラツコ捕り=ラッコ捕り、前章の主役。さまざまな奇術を見せた。
令和時代には、ラッコ捕りの演者がアクション・フィギュアにもなった。
苹果畠=リンゴ畑
廣い=広い
【解説】
ラッコ捕りがいなくなった。
ここで前章から引き継いできたトリックスターの要素が消失した。
この物語は、
起承転結でいうところの、
『転』=ラッコ捕りのエピソード各種を経て、
いよいよ核心に迫ってきた。
少し気になったので、
リンゴ畑の場所に行ってみると、
現在はリンゴはなく、
梨畑が遠くまで広がっていた。
(62へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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