銀鯖道の夜
ジロバンニの切符9
「あの人どこへ行つたらう。」
シギパネルラもぼんやりさう云つてゐました。
「どこへ行つたらう。
一體どこでまたあふのだらう。
僕はどうしても少しあの人に物を言はなかつたらう。」
「ああ、僕もさう思つてゐるよ。」
「僕はあの人が邪魔なやうな氣がしたんだ。だから僕は大へんつらい。」
ジロバンニはこんな變てこな氣もちは、
ほんたうにはじめてだし、
こんなこと今まで云つたこともないと思ひました。
【古語解説】
行つたらう=行ったろう、行ったのだろう
さう云つてゐました=そう言っていました
一體どこでまたあふのだらう=一体どこでまた会うのだろう
言はなかつたらう=言わなかったのだろう
さう思つてゐるよ=そう思っているよ
邪魔なやうな氣がした=邪魔なような気がした
變てこな氣もち=変てこな気持ち
ほんたう=本当
思ひました=思いました
(63へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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