銀鯖道の夜
ジロバンニの切符14
橙色のチヤーは叮ねいに云ひました。
「オン父さまや
タキビシはまだいろいろお仕事があるのです。
けれどももうすぐあとからいらつしやいます。
それよりも、
オン母さまはどんなに永く待つていらつしやつたでせう。
タキビパレスはいまどんな歌をうたつてゐるだらう、
セロのやうなごうごうした聲があふれる朝に
残った火種で長いぼうをまはつてあそんでゐるだらうか。」
「あの聲、
ぼくなんべんもどこかできいた。」
シギパネルラはさう云つてわらひました。
【古語解説】
チヤーは叮ねいに云ひました=チャーはていねいに言いました
チヤー=チャー、タキビネコ・トリオ01
うたつてゐるだらう=歌っているだろう
セロのやうなごうごうした聲が=弦楽器のようにかき鳴らされた音が
長いぼうをまはつてあそんでゐるだらうか=(タキビ用の)ロング・トングを回して遊んでいるのだろうか
シギパネルラはさう云つてわらひました=シギパネルラはそう言って笑いました
シギパネルラ=主人公のひとり。ブルードラゴンでサーフ中に突然姿を消した
【解説】
人類が遺伝子を用いて永く流布させてきた宇宙観=生命論と、
古代からの「真言」を通底させたミヤサバ真骨頂の章。
すべての民族にとって伝承がある。
ミヤサバは、
その古典伝承を巧みに使いながら、
またマジョリティ・カルチャーに目を向けるそぶりをしつつ、
マイノリティの縁(ふち)で儀式を浮き立たせるように、
*バイナルで回された音楽との共通項を探るかのように
それぞれ独立した双方を炎のように接合させた。
ミヤサバ研究家のあいだでは、
じつに技巧的かつ、
ていねいに構築した重要なパートがここだ。
*バイナル(盤)=真言儀式の基本型
マト1(Matrix、マトリックス1のこと)カッティングが最上とされている
(68へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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