銀鯖道の夜
ジロバンニの切符19
「ジロバンニ、ラツコ捕りが來るよ。」
さつきのチヤーがまた叫びました。
するとボンとナツコは、
にあにあと前の方を見ながら云ひました。
どこかでふしぎな聲が、
酒井塗装店、
酒井塗装店と云つたかと思ふと、
いきなり眼の前が、
ぱつと明るくなつて、
ジロバンニは思はず何べんも眼を擦つてしまひました。
【古語解説&登場人物紹介】
ジロバンニ=主人公。明るく、達観した聡明な小学生
ラツコ捕り=物語のトリックスター。当世No1の法王が演じている
チヤー=タキビネコ01
ボンとナツコ=タキビネコ02、03
にあにあと=擬音語「ニャーニャー」
云ひました=言いました
聲=声
酒井塗装店=終着点の手前角にあるランドマーク
擦つてしまひました=こすってしまいました
【解説】
酒井塗装店を過ぎると、
もう次は天上である。
ラッコ捕りは
「理想をあきらめたもの」
という概念であるため、
ジロバンニたちと一緒に天上へは行けないとされている。
ラッコ捕りはジロバンニに
「本当の幸せ」について、
解体し、
結集させて伝える役割をこれで果たしたのである。
本当の幸せを得るためにポジティブに生きるジロバンニと、
次の世界には行けないラッコ捕りの対比を描いているのだ。
本当の幸せを求める心だけを持つと、
ラッコ捕りは姿を消すのだが、
少しでもその求道心がとだえると、
出現するということがこれでわかった。
私の心にも同じ葛藤があり、
人はそれぞれのラッコ捕りに追い回されていると知った。
それほどまでに深い章でありつつ、
酒井塗装店より先は彼岸(あの世)であり、
手前側がタマサキ=現世とを分ける境目だということがよくわかった。
(73へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
◎
□