銀鯖道の夜
ジロバンニの切符17
先生が教へてくれたことをジロバンニは思ひだしました。
「眞空は光をある速さで傳へるもので、
太陽や地球もやつぱりそのなかに浮んでゐるのです。」
そしてチヤーは口笛を吹いてゐるやうなさびしい口付きでしたがボンのぬれたやうな頭をなめがら、
だんだん顏いろがかがやいて來ました。
「あなた方はどちらからいらつしやつたのですか。
どうなすつたのですか。」
さつきの燈臺看守がやつと少しわかつたやうに、
チヤーにたづねました。
【古語解説】
教へてくれたこと=教えてくれたこと
思ひだしました=ジロバンニは思い出しました
眞空といふ=真空という
傳へるもの=伝えるもの
浮んでゐる=浮かんでいる
吹いてゐるやうな=吹いているような
どうなすつたの=どうなさったの
さつきの燈臺看守=さっきの灯台看守
わかつたやう=わかったよう
たづねました=たずねました
チヤー=タキビネコ01
ボン=タキビネコ02
【解説】
「転じる章」
として、
私たちミヤサバ研究者のあいだではさまざまな議論が交わされてきました。
ひとつだけいえるのは、
表現の対置は、
それぞれの要素を越えはじめたということですね。
のみならず
「対置=ジロバンニたちとタキビネコ」
させることによって、
より優れた効果のある総合的効果を与えている。
さらにタキビネコも法王演ずる灯台看守も、
さらには太東岬の怪魚「檀那」ですら、
すべてのものという総合的な対置の集大成がここにある。
言うまでもないことだが、
各章のさまざまな断片を統合するだけでなく、
それら断片の意味を深く携えて宇宙空間に浮かんでいるように感じる文章の連なりだ。
(71へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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