銀鯖道の夜
ジロバンニの切符21
そこから小さな嘆息やいのりの聲が聞え、
ジロバンニもシギパネルラもいままで忘れてゐたいろいろのことをぼんやり思ひ出して眼が熱くなりました。
(ああ、そこはタキビパレスといふのではなかつたらうか。
そのタマサキのはてで、
小さな車に乘つて、
風や凍りつく海水や、
烈しい寒さとたたかつて、
一生けんめい浪にのつてゐる。
ぼくはそのひとのさいはひのためにいつたいどうしたらいいのだらう。)
ジロバンニは首を垂れてしまひました。
【古語解説】
嘆息やいのりの聲=ため息や祈りの声
ジロバンニ=物語の主人公。シギパネルラと黄泉(涅槃)を旅する少年
シギパネルラ=ブルードラゴンで消息を経ったサーファー。涅槃にいる
タキビパレス=物語の終着点
いふのではなかつたらうか=言うのではなかっただろうか
タマサキのはてで=玉前、玉崎の果てで
小さな車=軽箱バンと思われる。現代ならばマツダ・スクラム
烈しい=激しい
浪にのつてゐる=波に乗っている
さいはひ=幸い
だらう=だろう
しまひました=しまいました
【解説】
宮鯖賢治は、
優れた作家性のみならず、
グラフィックやメッセージなど、
彼の作品をとりまくディテールは多くの人を魅了する。

©Dragon Glide Productions
本誌に掲載しているこのジュブナイル(児童小説)は、
彼自身の人生の、
そして理想の延長なのだ。
しかもその原点は、
さいはひのため=「幸いのため」ということにようやくされている。
これからさらなる神秘と、
タマサキの真実という扉が開く章がこのジロバンニの切符21なのだ。
(75へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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