銀鯖道の夜
ジロバンニの切符20
シギパネルラは、
なにかほんたうに決心してゐるやうに見えました。
俄かに、
車のそとが、
ぱつと白く明るくなりました。
見ると、
もうじつに、
金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたやうな、
きらびやかな銀河の河床の上を、
水は聲もなくかたちもなく流れ、
その流れのまん中に、
ぼうつと青白く後光の射した車が見えるのでした。
その白い平らな頂上に、
紐でくくりましたサアフボードがあつて、
それはもう、
すきつとした金いろの圓光をいただいて、
青や橙や緑や、
うつくしい光でちりばめられてありました。
「タキビシン、タキビシン。」
前からもうしろからも聲が起りました。
ふりかへつて見ると、
タキビネコは、
つつましくそつちに祈るやうに頭をたれてゐるのでした。
思はず二人もまつすぐに立ちあがりました。
シギパネルラの頬は、
まるで熟した苹果のあかしのやうにうつくしくかがやいて見えました。
【古語解説】
シギパネルラ=ブルードラゴンで消息を絶ったサーファー
ほんたうに決心してゐるやう=本当に決心しているよう
俄かに=にわかに
金剛石=ダイヤモンド
聲=声、音
圓光=flare、朝顔形に広がる光
思はず=思わず
苹果=スイカ
あかしのやうに=明らかなように
(74へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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