銀鯖道の夜
ジロバンニの切符34
ジロバンニは、
ああ、
と深く息してから歌ひはじめました。
「ふくらめファンタジー走馬灯はらいそ。」
シギパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでゐました。
「溶けろリアリティいつかぼくも波も黄昏。」
シギパネルラも歌ひました。
「パラダイスはらいそ。」
ジロバンニは胸いつぱい新らしい力が湧くやうに歌ひました。
.
シギパネルラが、
棧橋のひととこを指さしました。
ジロバンニはそつちを見て、
まるでぎくつとしてしまひました。
棧橋の一ととこに大きなまつくらな孔が、
どほんとあいてゐるのです。
その底がどれほど深いか、
その奧に何があるか、
いくら眼をこすつてのぞいてもなんにも見えず、
ただ眼がしんしんと痛むのでした。
【深読み解説】
切符=十界曼荼羅
【解説】
この歌は、
冥土への案内人はジロバンニだと示すものとされている。
まっくらな穴は、
暗黒星雲(dark nebula)だろう。
とすると、
このタキビパレスの棧橋付近は、
(ジロバンニの切符33〜34を参照)
周囲よりも高密度の大気が、
他のエリアより濃く集まっているのであろうか。
これらのことによって、
シギパネルラとジロバンニは、
ついに酒井塗装店(酒井=境と示唆されている)の上=冥界付近までやってきたとわかる。
(88へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
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