銀鯖道の夜
ジロバンニの切符31
ジロバンニの眼はまた泪でいつぱいになり、
天の川もまるで遠くへ行つたやうにぼんやり白く見えるだけでした。
* *
東の空が赤くなりました。
何かもまつ黒にすかし出され、
見えない天の川の波もときどきちらちら針のやうに赤く光りました。
向う岸にまつ赤な火が燃され、
それはルビーよりも赤くすきとほり、
リチウムよりも、
うつくしく醉つたやうになつてその火は燃えてゐるのでした。
「あれは何の火だらう。」
ジロバンニが云ひました。
「蝎の火だよ。」
シギパネルラが又地圖と首つ引きして答へました。
その火がだんだんうしろの方になるにつれて、
すきとほつた綺麗な樂の音が大きくなり、
そして少しだけほんたうにそのまつ赤なうつくしいさそりの火はあかるくあかるく燃えたのです。
思はずジロバンニの眼が熱くなりました。
【解説】
本文中にある蝎=蠍=サソリという赤い星は、
地球からおよそ550光年の距離にある超巨星のアンタレスのことだ。
とすると、
北半球ならば夏に書かれたものだとわかる。
アンタレスは、
太陽の680倍もの大きさで、
太陽の4.5万〜13万倍の明るさの巨大な星。
地球から9兆4600億km(一光年の距離)x550=5,200兆km離れている。
5200 quadrillion
(85へ続きます)
文責:華厳旭 D.G.P.
◎
□